ヘ当然に、この国の動植物生産物が稀薄な人口のの周囲に次第に増加し、その上、海辺からは魚の供給もあるのであるから、食物は消費に対して余りあるものと考えたくなる。しかし全体として、人口は一般にほとんど、食物の平均供給と一致しているので、不順な天気やその他の原因からわずかの欠乏を生じてもすぐ困窮が生じなければならないように思われる。住民が非常な欠乏に遭遇しているように思われた特殊な場合は稀らしくないと云われているが、かかる時にはこの土人のある者は骨ばかりになり、またほとんど餓死しようとしているのが見られたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. c. iii. p. 34, and Appen. p. 551.
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    第四章 アメリカ・インディアンにおける人口に対する妨げについて

 吾々は次に、広大なアメリカ大陸に目を転じよう。その大部分の土地には、ニュウ・オランダの土人とほとんど同様に、自然から与えられるままの生産物を得て生活している、小さな独立した蒙昧種族が、住んでいる。土地はほとんどあまねく森林で蔽われ、南洋諸島に豊富に成長する果実や食用植物はほとんどない。狩猟種族のあるものが知っている極めて粗雑な不完全な耕作によって得られる生産物は、狩猟により獲られる食料の補助と考えてよいほど、わずかである。従ってこの新世界の住民は、主として狩猟と漁撈によって生活しているものと考えてよい1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そしてこのような生活様式に対する限界の小なることは云うまでもない。漁撈から得られる食料は、湖水や河や海の近くにいる者が手にし得たのみである。そして慎慮の足らぬ蒙昧人の無智と怠惰とのために、これらの食料を、実際に手に入れた時よりも後日のためにとっておくことはしばしば出来なかった。この狩猟者を養うためには、広大な地域が必要であることは、しばしば述べられまた認められているところである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼らの手に届く野獣の数、並びにそれらの獣を殺すか捕えることの難易によって、社会の人口は必然的に制限されなければならぬ。だから狩猟民族は、その生活様式で彼らが似ている野獣と同様に、土地の上に極めて稀薄に散在するであろう。野獣のように、彼らはあらゆる敵を逐い払うか、またそれから逃げるかしなければならず、そして互いに間断なく争っていなければならない3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Robertson's History of America, vol. ii. b. iv. p. 127, et. seq. octavo edit. 1780.
 2)[#「2)」は縦中横] Franklin's Miscell. p. 2.
 3)[#「3)」は縦中横] Robertson, b. iv. p. 129.
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 かかる事情の下において、アメリカがその面積に比例して極めて人口が稀薄なのは、人口はそれを養うべき食物なくしては増加し得ないという明かな真理の、例証でしかない。しかしこの問題のうちに私が特に読者の興味を惹きたいと思っている面白い点は、人口がいかにしてこの乏しい供給の水準まで抑止されるかということである。人民に対する食物供給の不足は、常に飢饉という形でだけ現れるものではなく、他のもっと永続的な困窮の形で、時に生れてから殺すよりも生れる前に人口を妨げる方に大きく働く習慣を生み出すという形で、現れるということを、見逃すことは出来ない。
 アメリカ人の女は多産的でないと一般的に云われている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この少産性は、その女に対する男の情熱が足りないという、アメリカの蒙昧人に特有と考えられている特徴の一つから起るのだと、あるものは云っている。しかしながらそれはこの種族のみに特有なことではなくて、食物が貧弱で不十分であり、そして絶えず飢饉または外敵により襲われる不安の中に生活している、すべての野蛮民族に、おそらく大きな程度に存在しているものである。ブルウスはしばしばこれに注目し、特にアビシニアの辺境の蒙昧民族たるガラ族及びシャンガラ族について述べている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。またヴァイヤンはホッテントット族の人口稀薄の主原因としてその冷淡な気質を挙げている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。これは、性的情欲から注意を奪ってしまう蒙昧生活の艱難と危険によって起るもののように思われる。そしてアメリカ土人の情熱不足の主たる原因は、その体質から来る絶対的欠陥ではなく、かかる事情がその原因で
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