んどない。彼らの荒凉たる国と悲惨な生活状態は、かかる知識を伝うべき彼らとの交渉を妨げている。しかし吾々は、その外貌そのものが半ば餓死の姿を示しており、寒さにふるえ垢と虱とに蔽われながら世界中で最も悪い気候の中に住み、しかもその厳しさを緩和し生活をいくらかもっと楽しくする便宜を自ら備えるの智恵を有たない、蒙昧人における、人口に対する妨げが、いかなるものであるかは、これを知るに当惑しないのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's First Voy. vol. ii. p. 59.
 2)[#「2)」は縦中横] Cook's second Voy. vol. ii. p. 187.
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 これに次いで、智恵と資源ではこれとほとんど等しく低いものとして、ヴァン・ディーメン島の土人が挙げられている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし最近の記述の示すところによると、東洋のアンダアマン諸島には、これよりもっとみすぼらしい蒙昧人が住んでいる。従来旅行家が蒙昧人の生活について述べているあらゆることも、この種族の野蛮さには及ばないと云われている。彼らの時間は全部食物の捜索に費やされる。そして彼らの森林は動物をほとんどまたは全く産せず、また食用植物もほとんど産しないので、彼らは岩を攀《よ》じ登ったり、あてのない魚肉を探すために海辺を徘徊したりすることを、主な仕事としているが、それも暴風雨の季節にはしばしば全く無駄になってしまう。彼らの身長は滅多に五|呎《フィート》を超えず、その腹は膨れ上り、肩は高く、頭は大きく、そして四肢は不釣合に瘠《や》せている。彼らの容貌は、極端な窮状、飢餓と獰猛との恐るべき混合を現わしており、そして彼らの瘠せかつ病んだ姿態は、明かに、健康な食物の不足を物語っている。この不幸な人間中のある者は、飢餓の最終段階に瀕していることが見出されたのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vancouver's Voy. vol. ii. b. iii. c. i. p. 13.
 2)[#「2)」は縦中横] Symes's Embassy to Ava, ch. i. p. 129, and Asiatic Researches, vol. iv. p. 401.
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 これより一段階進んだ人類としては、吾々は、ニュウ・オランダの住民を挙げ得ようが、その一部については、久しくポオト・ジャクソンに住んでいて、その習慣や行状をしばしば実見する機会を有った一人の人から、信ずるに足る報告を得ている。キャプテン・クックの第一航海記の報告者は、ニュウ・オランダの東海岸では極めて少数の住民しか見られず、その荒廃せる状態からしてこれ以上の人間を養うことは明かに不可能である、と述べた後、曰く、『この地方の住民がどうして現在養っているような人口に減らされたのかは、おそらくなかなか推断しにくい。それがニュウ・ジイランドの住民のように、食物を争って相互の手で殺し合ったのか、偶発的の飢饉で一掃されたのか、または種族の増加を妨げる何らかの原因があるのかの判定は、将来の探検家に委ねられていることでなければならぬ1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Cook's First Voy. vol. iii. p. 240.
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 コリンズ氏がこの蒙昧人について述べているところは、思うに、ある程度まで満足な答を与えるものであろう。それによると彼らの身長は一般に高くなく、身体はがっちりともしていない。彼らの腕や脛や腿は瘠せているが、それは彼らの生活様式が貧弱なためである。海岸に住むものは、食物としてはほとんど全く魚肉にたより、時に小さなゴム樹の幹の中にいるかなり大きな蛆を見出してほっとしている。森林には動物が非常に少く、それを獲るには非常に大きな労働がいるので、奥地の土人も海岸のものと同様に貧しい境遇にある。彼らは蜜や、むささび、袋鼠のような小動物を求めて、非常に高い木に登らざるをえない。幹が非常に高くしかも枝のない時には――これは密林での通例であるが――これは非常に骨の折れる労働であり、左手で木を抱きながら、一歩ごとに順次その石斧で刻目を作って、登るのである。その最初の枝に達するまで八十|呎《フィート》の高さに至るまでもこのようにして刻目をつけられた木が見られたが、ここまで登らなければ、飢えた蒙昧人はこれほどの骨折りに対する何らかの報酬を手に入れることを望み得なかったのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き
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