熄氓チて外見に欺かれそうもない人に異見を呈するに当っては、確かに大いに忸怩たるべきであるが。もし私が、古代史のある時期に、一家をもつことの奨励が大であり、従って早婚は非常に普及しており、独身生活を送るものはほとんどないことを、見るならば、私は、人口は急速に増加しつつあったとは確実に推論すべきであるが、しかしそれは当時現実に極めて大であったとは決して推論すべきではなく、むしろ反対に、それは当時稀薄であり、そして遥かにより[#「より」に傍点]大なる人口に対する余地と食物とがあったのだと、推論すべきである。他方において、もし私が、この時期に、家族に伴う困難か極めて大であり、従って早婚はほとんど行われず、両性の多数のものが独身生活を送ったことを、見るならば、私は、人口は停止しており、そしてそれはおそらく現実の人口が土地の肥沃度に比例して極めて大であるからであり、そしてより[#「より」に傍点]以上のものに対する余地と食物とはほとんどなかったと、確実に推論するのである。現代の国家に僕婢やその他独身を続ける多数のものがいるのは、むしろ、現代国家の方が人口が大であるということを否定する論拠であるとヒュウムは考えている。私はむしろこれと反対の推論を下し、これは人口が充満していることの論拠と考えたい。もっとも人口稀薄な国家でしかもその人口が停止的なものが多くあるから、この推論は確実とは云えないが。従って、正確に云うならば、異る時期における、同一のまたは異る国の、全人口に比較しての未婚者の数は、吾々をして、人口がこれらの時期において増加しつつあるか、停止的であるか、または減少しつつあるかを、判断し得せしめるであろうが、しかし吾々がよってもって現実の人口を決定すべき標準をなすものではない、と云い得よう。』1st ed. ch. IV., pp. 55−59.
[#ここで字下げ終わり]
かくの如く人類社会を概観するにあたってこれまで考察を加えた一切の人口に対する妨げは、明かに、道徳的抑制、罪悪、及び窮乏の三つとすることが出来る。
予防的妨げの中で私が道徳的抑制と名づけた部門は、確かに人口の自然的力を抑止する上で幾分の役割を果してはいるけれども、しかし、厳密な意味にとれば、他の妨げに比較すると、その働く力が弱いことを認めなければならない。予防的妨げの中で罪悪の項目に属する他の部門については、その結果は、ロウマ史の後期及び他の若干の諸国において極めて著しかったように思われるけれども、しかし大体において、その作用は積極的妨げよりも劣ったように思われる。従来は繁殖力の大部分が働かせられ、それから生ずる過剰が暴力的原因によって妨げられたのである。これらの中で、戦争が最も優勢な顕著なものであり、これに次いでは飢饉及び破壊的な疾病が挙げられ得よう。考察を加えた大抵の国においては、人口は平均的な永続的な生活資料によって正確に左右されたことは滅多になく、一般に両極端の間を振動したように思われ、従って、吾々が当然に文明劣れる国に期待すべきように、欠乏と豊富との間の擺動が非常に目立つのである。
底本:「各版對照 マルサス 人口論※[#ローマ数字1、1−13−21]」春秋社
1948(昭和23)年10月15日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「敢て・敢えて→あえて 貴方→あなた 普く→あまねく 凡ゆる→あらゆる 或る・或→ある 雖も→いえども 如何→いか 何れ→いずれ 何時→いつ 一層→いっそう 謂わば→いわば 況んや→いわんや 於いて、於て→おいて 概ね→おおむね 於ける→おける 恐らく→おそらく 拘わらず→かかわらず か知れ→かしれ 勝ち→がち 且つ→かつ 嘗て→かつて 可成り→かなり かも知れ→かもしれ 位→くらい 蓋し→けだし 極く→ごく 茲に→ここに 毎→ごと 之→これ 而して→しかして 而も→しかも 然らば→しからば 然る→しかる 屡々→しばしば 暫く→しばらく 即ち→すなわち 総て→すべて 精々→せいぜい 其の・其→その 夫々→それぞれ 度い→たい 沢山→たくさん 唯→ただ 但し→ただし 忽ち→たちまち 度→たび 度々→たびたび 多分→たぶん 偶々→たまたま 為・為め→ため 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと 就いて→ついて 就き→つき て置→てお て居→てお て呉れ→てくれ て見→てみ て貰→てもら 何う→どう 何処→どこ 所が→ところが 所で→ところで とも角→ともかく 乃至→ないし 中々→なかなか 乍ら→ながら 成程→なるほど 許り→ばかり 筈→はず 甚だ→はなはだ 程→ほど 殆んど→ほとんど 略々→ほぼ 正に→まさに
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