貧困」に傍点]を恐れる理由は個人にはないのであるから、政府は何らかの方法で法律により人口を抑圧せざるを得ないであろう。そしてこれはあらゆる自然的感情の最大の蹂躪《じゅうりん》であろうから、財貨の共有に対するこれ以上の有力な反対論はあり得ないのである。
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その他若干の島々にはちょっとした訪問が行われただけであり、従ってそれに関する記述は不十分であるから、吾々としては、その習慣について詳しく述べることは出来ない。しかし、上述した限りにおいては、これらの習慣は一般に類似していることからして、吾々は、これらの島のあるものには上述の如き甚しい蛮行のあるものがないとはいえ、女子に関する悪習と戦争とが、その人口に対する主たる妨げである、と考える理由を有つのである。
しかしながらこれが全部ではない。南洋諸島の土人の生活について伝えられている食物豊富な幸福な状態の問題について、私は、この楽天地について時に過大のことが云われるため、吾々の想像は真実以上の点まで行きすぎているものと、考えたい気がする。オウタハイトにさえ欠乏の圧迫が珍しくないというキャプテン・クックの最終航海記の叙述は、一切のこれらの島々のうちで最も肥沃なものに関して吾々の蒙を啓くものである。そして伝道航海記から見ると、パン果の実らない季節には、すべてのものが一時的欠乏に悩むのであることがわかる。マアクイサス諸島に属するオハイタフウにおいては、この欠乏が飢饉と化し、動物ですら食物の欠乏により死に瀕したのである。フレンドリ諸島の主島たるトンガタブウにおいては、豊富な食物を確保するために酋長が他の島にその住居を移し1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、そして時には多くの土人が欠乏に大いに苦しんだ2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。サンドウィッチ諸島においては、長期の旱魃が時に起り3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、豚と山芋はしばしば極めて少くなり4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、そして訪問者はオウタハイトの贅沢な気前のよさとは大いに異って、ひどい虐待を受けるのである。ニュウ・カレドニアでは住民は蜘蛛を食って生きており5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]、そして時には、飢の欲求を鎮めるために、大きな滑石を食うまでに至るのである6)[#「6)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Missionary Voy. Appen. p. 385.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 270.
3)[#「3)」は縦中横] Vancouver's Voy. vol. ii. b. iii. c. viii. p. 230.
4)[#「4)」は縦中横] Id. c. vii. and viii.
5)[#「5)」は縦中横] Id. ch. xiii. p. 400.
6)[#「6)」は縦中横] 〔Voyage in search of Pe'rouse, ch. xiii. p. 420. Eng. transl. 4to.〕
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これらの事実は、ある時期にこれらの島の生産物がいかに豊富であることが見られるとしても、または彼らがいかに無智、戦争及びその他の原因によって妨げられるとしても、その平均人口は、一般的に云えば、平均食物の限界を緊密に圧迫していることを、有力に証明するものである。下層階級の人民の生命が上流者によってほとんどまたは全く価値を有たぬものと考えられているように思われる社会状態においては、吾々が表面上の富裕について極めて欺かれ易いことは明かである。そして吾々は、容易に、主だった所有者階級はたくさんの豚や山菜をヨオロッパの商品と交換したかもしれぬが、他面その家来や奴隷は甚だしく欠乏に悩んでいるものと、容易に考え得るであろう。
蒙昧生活の名の下に分類され来っている人類社会部門に関するこの概観を終るに当り、私は、それが文明生活に優っている利点で私の認め得る唯一のことは、人民大衆がより[#「より」に傍点]大なる程度の閑暇をもつ点であるということを、述べないではいられない。為すべき仕事はより[#「より」に傍点]少なく、従って労働はより[#「より」に傍点]少ない。文明社会の下層階級が不断の労苦に運命づけられていることを考えると、これは吾々には著しい利点と思われざるを得ぬ。しかしそれはおそらくはるかにより[#「より」に傍点]大きな不利益によって打ち消されて余りある。生活資料が容易に獲得される一切のこれらの地方には、極めて圧制的な階級差別が行われる。財産の打撃と侵害は当然のことのようであり、そして下層階級の人民は、文明圏において知られているよりもはるかに低い隷属状態にある。蒙昧生
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