iする傾向はほとんどないのである。そして私が、それから必然的に生ずると思われる帰結――かかる帰結なるものが何であろうとも――のいずれかを考察することを拒否するならば、私はこの問題を正当に取扱わず、またそれを正しく論議したことにはならぬ、と考えたのである。しかしながら、この案をとったので、私は多くの反対論と、またおそらくは極めて激しい批判とに、門戸を開くことになったのに、気がついている。しかし私は、私が犯しているかもしれぬ誤謬ですら、議論の手がかりとより[#「より」に傍点]以上の検討の刺戟とを与えるであろうから、社会の幸福とこれほど密接な関係を有つ問題をより[#「より」に傍点]以上一般の注目をひくようにするという、重要な目的に役立つであろうと考えて、ひそかになぐさめているのである。
 本書の全体を通じて私は、原理において、前著とは、罪悪と窮乏のいずれの部類にも入らない人口に対するもう一つの妨げの作用を想定する点で、意見を異にした。そして本書の終りの部分で、私は、『人口論』第一版の最も苛酷な結論のあるものを緩和せんと努めた。このことをなすに当って、私は、正しい推理の原理を破らず、また過去の経験によって確証されない蓋然的社会進歩に関する何らかの意見を表明しはしなかったと、希望する。人口に対する妨げはそれがいかなるものであろうと、それはそれが除去せんとする害悪よりも悪いものだと、なお考えるものには、前版『人口論』の結論が依然十全の力を有つであろう。そしてもし吾々がこの意見を採用するならば、吾々は、社会の下層階級の間に広く存在する貧困と窮乏とは絶対的に救治し難いものであると、認めざるを得ないであろう。
 私は本書の中に掲げてある事実や計算については誤りを避けるよう、出来るだけの努力をした。それでもなおそのあるものが誤りであることがわかったとしても、読者はそれが一般的論述に本質的には影響を及ぼすものではないことを、認めるであろう。
 問題の第一部門を例証するに当って現れた山なす資料の中から、私は最良のものを選んだとか、またはそれを最も明晰な方法で配列したとか云って、誇る気は少しもない。道徳的政治的問題に興味を有つ人々には、この問題の新奇さと重要性とが、その取扱の不完全を補ってくれることを、希望する。
   ロンドンにて
     一八〇三年六月八日
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