状態であったのです。
しかし私は、来店される客の増加に応じて徐々に拡張し、店内は常に相応の賑いを失わぬようにすべきであるという見地から、建築費の節減を計らんがために一挙に大拡張をして、店内が急に淋しみを感ずるようでは、決して策を得たものではないという考えを捨てなかったのです。そうしてそれは決して間違いではありませんでした。
商売上手といわれ、また店舗として自他ともに許したものが、あまりに調子に乗り過ぎて、先の先まで見通したつもりの拡張や改築がかえって失敗の原因となった例は、いずれの周囲にもあまりに多数に見られるのです。大阪の灘萬などもその最適例です。また繩のれんの一杯茶屋であるとか、八百屋などの雑然たる繁昌店が堂々たる店舗に改造して、急に客足を減ずるなど、みな店相応の格を忘れての失敗といわねばならない。総じて人に人格ある如く、店には店の格というものがあって、その店の格相応の構造を必要とし、必要以上のものは破壊の因をなす。考えねばならないことだと思います。宮内省御用の虎屋なればこそ、あの堂々たる城廓のような建築でも商売繁昌するのであって、もしあれを一般の菓子店が真似たならば恐らくお客
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