うして便宜をはかるのでなければ得意を失う。それゆえ毎日かけ廻って御用をきくということであった。はじめ彼が資本として残しておいた二十円の金には死すとも手はつけまいと決心してこれを実行した。その覚悟と精励刻苦、ついには彼は志を貫いたのである。自分はこの油屋に敬服し、その経験談はいつも我が弱き心を刺激し発奮せしめるのである。かくの如く我が好模範は大厦《たいか》[#ルビの「たいか」は底本では「たろか」]高楼に枕を高くしている大事業家ではなく、心なき人の足下に蹂躙せらるる野末の花に等しい名もなき小売人の中にこそ我が学ぶべき師はあるものと信ずる。

    大商店に奉公せんよりは小さき店を選べ

 我邦屈指の大商店の番頭は、その店へ通勤するのに人力車をもって送迎されたと聞いているが、この人独立で同業を開店し、大いに日頃の敏腕を自分の商店において縦横に振わんとしたが、開業後間もなく閉店することになった。有名な大商店の番頭ともいわれる大技量ある人が、何故一小店の店主として成功しなかったかと、自分も一度は不思議に思ったのであるが、忽下の如き解釈がついた(もっとも失敗には種々の原因はあるが)。大商店として
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