が羨望措く能わざるところの富豪は、もとより非凡の人たるはもちろんなれども、おおむね戦争を利用し、あるいは投機的事業を企図し、あるいは高位高官に取り入りて、莫大の利を得たるものが多く、その敏腕を称せらるる内には、必ずある一種の不正を加味せられざるものほとんどなしと聞けり、世にかかる浮雲に等しき富を望む者の多きは歎かわしき限りである。
 ここに当店へ出入りの油屋、彼はもと越後の小百姓であったが、地主へ奉公するも一生開運の見込みなきところから、夫婦相携えて他に糊口の道を探すべく東京に出て来た。着するや直ちにある裏店に居を占め、さて如何なる仕事に就いたものであろうかと思い迷ううち、国もとから持って来た金のうち二十円を食い尽して、残るところ僅かに二十円、これが彼の唯一の資本金であった。彼はせん方なく当座の仕事として石油の行商を始めた。すなわち戸ごとに「油屋でござい」と呼び歩くのであるが、初めの数日間は終日かけ廻って僅か数軒の得意を得たばかり、かくてはとうてい夫婦の口を糊するに足らないので、彼は夜は辻俥《つじぐるま》を挽き、これで得た金を食料に当て、先に資本として残した二十円には決して手を着けぬこ
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