所は他の店に譲り、近い所に全力を集中するのが悧巧な方法で、人件費配達費を考えたら、遠方配達は到底出来ぬことである。
 小売店が百貨店と対抗して商売するには、米国の連鎖店がしたように、百貨店の品を隅々までも精細に調査研究した上で、各店が連合協力して、一店毎に瀬戸物なら例えば火鉢、洋品店ならメリヤス襯衣という風に、二三種を各々奉仕販売するのも一方法である。品の種類は時季に応じて取りかえて行く。
 これを実行するには目先を利かせて機敏に、絶えず百貨店の先手を打って行くようにせねばならぬ。客の方では何日何商店に、何日どこそこの店に行けば百貨店と同じ品で、しかも値が安いというので、わざわざ電車に乗ってまで百貨店に行かずに済むから便利である。大資本、大量仕入の百貨店と対抗するには、品質を落さないこと、各商店が気を揃えて協力することが大切で一人や二人では相撲は取れぬ。
 次に、広告宣伝の方法は、「何日特売デー」「何日粗景呈上」「勉強の親玉」等と、抽象的な平凡な文句を書いても効能は少ない。
 何処の店のチラシも皆な同様な文句をならべたのでは、いっこうに魅力を感ぜぬ。こんな消極的なきまり文句では少し心あるものには、その店主の脳味噌の程が思いやられて、足を向ける気がしない。
 百貨店では広告の文句、宣伝の方法を真剣に研究している。小商店では出たとこ勝負のやっていけ[#「やっていけ」に傍点]で、甚しいのになると、他店の文句をそのまま真似たのさえある。滑稽きわまる話で、何のための広告か真意の程を理解するのに苦しむ。その店には必ず独自の特色、個性があるべきで、他店にない特色、個性があってこそ初めてその店は生きてくる。
 客が足を向けることを誇りとする店、かかる店であれば、不景気など素通りしてしまう。「あの店でチンドン屋を雇ったから俺の店も雇おう」ではいけない。
 そこで各店が連合して、一店一種ないし二種の犠牲奉仕品を出すには、広告チラシも共同の物を作る。そうすれば費用も少額で足りる。文句も「お安く致します」だけでなく、何印の何品は何程と書き、百貨店の売価と対照した表を作って、一目で百貨店より二銭なり三銭なり安いことを知らしめるようにする。
 要するに大多数の小売店が、百貨店の進出によって、不利なる立場に追い詰められつつあるのは、産業界経済界の不況にも因る事だが、研究心の不足が大なる原因である
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