とがあっては、部下を統一することが出来ないので、仕事の成績も上がらない。絶えず反省して感情にとらわれることを避け、公平に考え導くとともに、主人にも部下を公平に待遇してもらうよう、正しい報告をするように努めなくてはならない。まずこれで職長学七ヶ条となりましょうか。どうか諸君も心がけて、他日人の上に立つ時のために修養し、いよいよ人格的に向上することを希望します。

    成功の三要素
[#地から3字上げ]昭和十一年十二月中村屋歳末例会において

 歳末に[#「歳末に」は底本では「歳未に」]際し、例によって諸君に一言挨拶を述べようと思う。本年のわが中村屋の成績は前年に比し、一割五分の増進を示しました。全く諸君の勉強によることと深く感謝いたします。
 私はこの間労資協調会に招かれて行ったが、そこでたいへん面白い話をきいた。これは諸君の良い参考になるからぜひ話そうと思って、実は今日を待っていました。この話をしたのは当日来会せられていた三井報恩会の遊佐敏彦という人で、神戸の夜学校にて、三十年間におよそ五万人の生徒が教えを受けた。その五万人のうち名をなしたものが二百人ある。この二百人について、その成功の基となったものは何か、きっとそこに共通するものがあるに違いないと調べて見て、三つの要素を発見しました。その一は「一業に専心すること」第二は「同輩より一歩を先んずること」第三は「報恩感謝の念篤きこと」であった。二百人がちゃんとこの三つを持っていたのであって、このうち一つ欠けても成功しないことが判ったという話。私はこれを聞いてなるほどと思った。夜学校の生徒といえば経済的には恵まれぬ境遇で、その点諸君と似ています。真剣に誠実に働いて、それが自然にこの三つの要素となったのであって、何も箇条書にして実行したわけではなかろうが、私はこの一つ一つについて少し話して見ましょう。
  一業に専心すること
 何でもないことのようだが、これがなかなか容易でない。他人の仕事は面白そうに見えて、自分の仕事はつまらなく見えるのが一般人の常です。そこで仕事を変える。この移り気が禍いして一生をだいなしにする者がどのくらいあるか判らない、ちょうど女の子が嫁入りすればその初縁を守ることが大切で、もし我儘を言って出戻りすると、つぎつぎと劣ったところへ嫁ぐようになって、悲惨な最期に達する。それと同じで、男子も最初に目的
前へ 次へ
全165ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング