ば部下は不平を起すにきまっています。その結果は職場の能率が低下し、製品の出来栄えも落ちて、ついには職長が地位を失うことになる。まことに困ったことだが、世間にはそういう例が少なくない。しかし何故職長が秘伝を惜しむか、これには主人も大いに責任を負わねばなりません。
それは何故かというと、職長が技術を残らず伝授して、部下がだいたいそれをのみこみ、ほぼ代理が出来るようになると、主人は高給を惜しんで職長を解雇し、給料の安い若い者に代らせるという例が世間に実に多いのです。職長もそんな目に遭っては大変だから、自分の地位を守るために部下に対しては内々気の毒に思いながらも、仕事の一部を秘密にして、後進の道を塞がざるを得ないのであって、考えて見るとこれも気の毒な話であります。諸君が将来そういう勝手な主人になってはならぬこと、これはもう言うまでもないが、職長となって部下を率いる場合にも、技術を教えしぶるようではならない。主人は職長の地位を保証して、懸念なく指導者としての働きをさせるようにし、職長は安心して親切に後進を導き、部下はその教え子として職長を敬愛し信頼して修業を積む、そうあってこそ互いにその職分に満足出来るのであります。
しかし世間の職長の気風はよくないものがあって、部下から何かを教えるに際し、いちいち報酬を要求するものがある。また月末給料の入ったのにつけこみ、花札、将棋、麻雀などに誘うてこれを巻上げる。あるいは飲食店につれこんで、一緒に飲食して、その勘定を負担させる。部下はそれに対し泣寝入りでついて行かねばならないなどというのが珍しくないが、かような輩はどれほど技術が優秀でも職長たるの資格はありません。主人は即時にこれを解雇すべきであります。
次に、職長は自分の担任する部内で、何か失態を生じて、主人あるいはお得意に詫びなければならない場合となった時は、たとえそれが部下の過失であっても、自分はその部の長であるから、責任を負うて、部下に代って陳謝すべきであります。職長の中にはこれの出来ない人があって、往々部下に全責任を負わせ、自分は知らぬ顔で済まそうとする。これが単にその男の小心から出ることもあるが、とにかく少しでも責任を回避するところがあっては、人の上に立って信頼を得ることは出来ない。まず職長の資格はないものと言わねばなりません。
しかしまた、部下に人気があるから必ずよい
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