国に寄り道した程度のものであるから、まとまった研究などではありません。

    今までの旅行と違った点

 ただ、私の今回の旅行は、今までの沢山の旅行者と幾分違った点があると思います。
 従来彼方に行かれた人々は、留学生とか、大学教授とか、その他政治家、あるいは大工場主というような立派な方々ばかりで、私のような小さな一商店主が西洋における商業の実際を調べに往ったのは、私が嚆矢《こうし》ではないかと思います。こうして今一つ私が少しく調べて来ましたのは、百貨店の大発展についてであります。この事は近頃、新聞雑誌等でも問題とされて居りますことで、すなわち近年の大不景気に際会して、一般商店は大概一割二割の売上げが減少して居るにかかわらず、ひとり百貨店のみは年々売上高が増加し、前年よりは必ず多くなっていると云う有様で、もしも景気がなおったならば、どのくらい発展するかわからない。彼方に一万坪、此方に五千坪と、隣り近所に大きな百貨店が続出するという有様では、一般小売商店にとっては少なからぬ脅威であります。
 これについて、先進国である欧州においての百貨店の営業振りと、これに対する個人商店の対抗振りとを、ついでに見て来たいと思ったのでありました。
 彼の地における大使や商務官方のお話によりますと、東京の百貨店ではたいがい視察に来て、白木屋からは四人連れの一行が来られた。また三越なんかは前後何回も来て居られたが、小売商店の方で研究に来られた者はいまだかつてないという事でありました。よってそれらの研究をお話したらば、多少は御参考になるかと思います。西洋の立派な建物を見たり、ローマの都で、一度に千八百人もはいる浴場の跡を見たり、あるいは巴里のグランド・オペラで三千人の美人が一堂に集まる、というようなありさまとか、風俗とかは誰でも見たことであって、いまさら私が申し上げるのでもなく沢山紹介されて居りますゆえ、これらの方面のことはいっさい省略しますが、順序として旅行最初の印象をちょっと申し上げたいと存じます。

    海上四十日間の所感

 上海を経まして、それより英領の香港、また英領のシンガポール、また英領のセイロン島等に寄港し、続いて立寄ったエジプトもこれまた独立国と云うのも表面だけで、やはり英国の保護国であるようなわけで日本を出でてより海上四十日間、ことごとく英領をすぎる。その英領はみ
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