なか合いにくいことを話すと、その家の金銭登録器も毎日ちょうど私の方のと同じくらい記録するのであったが、知人は「そんなことはない、うちでは日に何千万の出入りがあっても、器械の記録と実際と違うなんてそんなことは断じてない」という。しかし私は店の会計係を信じているので「違うこともある」と主張した。すると奥さんが妙な顔をして「そう言われればおかしいことがあった」といって次のことを話し出した。奥さんがある日外出するので、店の会計係に懐中の五円紙弊を一枚出して両替させた。あとで気がついて見ると銀貨は六円になっていた。これはわるいことをしたさぞ勘定が合わなくて困ることだろう。と奥さんは心配したが、その日のうちには通じる機会もなくて翌日になった。奥さんが会計係のところへ行って「昨日は勘定が合わないで困ったろう」というと、会計係は「いいえ、大丈夫違えるものですか」と言ったという。無論前の晩主人のところへ持って来たその日の勘定は、記録された金額と現金とちゃんと合っていた。その会計係は、間違って多い時は着服し、少ない時はその中から足して、器械の記録金額に合わせていたのである。
私は私の会計係の毎日ありのままな報告をどんなに喜んでいるか知れない。
私は店員を信じる。しかし信ずるということが私の不精の結果でない事を言いたい。私の店では毎年高等小学卒業生を二十三名採用する。そうしてこれを育てて行くのだ。まず百人くらいの志望者が集って来るが、これを厳密に選考する。学科、体格の試験はもちろんだけれども正直試験といって、家庭の事情、本人の趣味とか愛読書、入店志望の理由等詳細に正直に書かせる。
こうして入店した少年諸君は全部寄宿舎に収容する。少年組の寄宿舎には、三松俊平氏が父として、あるいは先生として監督している。三松氏は基督教牧師として有名なりし植村正久先生の高弟で、(しかし宗教的には店員には全然干渉しない)その人格に信頼して、私は百人からの少年諸君の修養をお願いしている。ある時地方から来た少年に、寝小便の癖のあるものがあった。三松夫妻の努力でいつの間にか癒った。私はこの話を最近まで知らなかった。それは、早いうちに私の耳に入って「そんな子供は困る。帰したらどうだ」とでも言うようなことがあってはと、恐れたものであろう。一事が万事この調子で少年諸君の親となってくれていた。少年組は三カ年後は青年組の
前へ
次へ
全165ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング