費の低減を期してこそ、商店としての信用を博し、商店としての強みを有し、商店としての繁栄を招来することを得るのである。こうした確信の下に、私は私の経営法改善に長い間心がけて来たのである。
製造販売能率の平均
最初に私の店で製造販売をはじめたのは、各種の味付パンであった。ところがいうまでもなく味付パンなるものは、春から夏へかけて沢山に売れるけれども、秋から冬にかけては著しくその売行きを減ずるのである。従って春夏の候はややもすれば不足し勝ちであったその製造能力は、毎年きまり切って秋冬の候に至ってありあまることとなり、同期間の損失空費はすこぶる少なくないのを例とした。そこで私は、これではならぬ、何とか商売の繁閑を平均して、一ヶ年常に全能力を発揮する工夫はないかと考え、ちょうど開業六年目に当る秋の初めから、新しい設備を整えて、餅菓子を売出すことにした。餅菓子は同じ菓子類であっても、パンとちがって、秋から冬にかけて沢山売れ、春から夏にかけて著しくその売行きを減ずるのであるから、パンとは全く反対で、これを兼営するに至ってここに初めて一年を通ずる商売の繁閑平均を求め得、また製造販売の全能力を充分に挙げ得るを得たのであった。
かくの如くにして、一時的な大売出しの計画に成功せんとするよりも、むしろ一日一日の確実な売上げ増進に努力し来り、それがためには、味付パンに加うるに餅菓子兼営をもって、商売の繁閑盛衰を平均し常に製造販売の全能力を発揮するように考慮をめぐらして来た私は、その後新しく西洋菓子に手を染めたのに対し、またまた食パンの大量製産を始めてこれが調和を図り、今日では味付パン、餅菓子、食パン、西洋菓子の四工場を各々交互に伸縮自在ならしめ、一ヶ年間を通じて少なくも繁閑の変動なしにその全能力を挙げ得らるる仕組みにしている。そうして徐々に、堅実に、全体的の売上げ増進策をはかり、一年三百六十五日、毎日毎日が大売出しの意気込みで、顧客に臨みつつあるのである。
賃餅開始の苦心
ところで、私が売上げ高の平均、すなわち如何にして製造販売の全能力を発揮するかに苦心した一例を挙げると、それには、賃餅引受開始の苦心談がある。
賃餅とは、説明するまでもない東京の一風習であって、年末に各家庭がその必要な正月の餅を仕事師なり、米屋なり、また菓子屋なりに頼み、いつ幾日に何斗何升の餅
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