。店則には帰宅時間の定めがありましても、主人の執務中、自分だけ帰宅することは出来ず、満々たる不平を懐きつつ主人の退くのを今か今かと待って居るのであります。されば、これらの人々の執務時間は、十四五時間に及ぶとも、その能率に至っては早仕舞を楽しみつつ喜び勇んで働く人々の八時間にも劣るものであります。こうして仕事好きの主人は、毎日毎日使用人の数時間を無駄にし、彼らの家庭の団欒をも失わしめるのであります。また使用人中には何らの不平もなく、十五、六時間を真剣に働く殊勝なものもありますが彼らは過労の結果、業半ばにして倒れるものが多いのであります。これは大切な人間の生命を無駄に終らせるのでありますから、これこそ最大の無駄といわねばならないのであります。
かつて欧州大戦当時、神戸の独逸人商館に勤めていた友人の話に、その主人は毎夜十一時迄も仕事をして居りましたが、使用人にはことごとく五時半限りとして帰宅させました。ある時友人が主人に少しく手伝わせて貰いたいと申し出ますと、彼はこれに答えて、祖国独逸の人々が、今戦場に生命を曝しているのを思って私は働いているのであるが、諸君はすでに定められた今日の職務を果したのであるから、私に対する懸念はいっさい無用であると断られたということであります。
また前内務大臣山本達雄氏が、内相後藤文夫氏に対する事務引継ぎの際に、貴君は農林大臣当時夜中までも会議を開いていたと聞いて居るが、内務省では退庁時間を尊重するよう取計って貰いたい、これが私の事務引継ぎである、と述べたと当時新聞紙上に報ぜられて居りましたが、これこそ人に長たるもののまさに心得べき金言であると思います。
廃物の利用
薯蔓《いもづる》式経営といって、一つの事業から生ずる廃物を他に有効に利用して、それからそれと利益を挙げます。例えば昔はコールタールは、ブリキ屋根を塗る以外に用途の無かったものでありますが、今日では九州の三池炭山やその他等においてはコールタールから染料を製出して、従来独逸から輸入されていた数千万円の染料を防ぎ止めるだろうと云われて居ります、私の店でもこの点に留意しまして従来捨てて置いたパン屑を利用して犬ビスケットを製造する事に致しました。これが幸いに英国や独逸から輸入している犬ビスケットを圧倒して居るのであります。舶来品は一斤六十五銭、これに対して中村屋製品は二十五
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