私の小売商道
相馬愛蔵

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暖簾《のれん》で

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天罰|覿面《てきめん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]コを
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    序

 私は商業に何の経験もなくて一商店主となったものであります。従って既往幾百年の間に、商人がその経験から受け継いで来た商売の掛引その他については、何の知識をも持っていないのであります。さらに在来の商人が伝来の風習によってかえって商人道の真髄に遠ざかる憾みあることを感じ、むしろ素人を以て誇りとするものであります。
 また欧米諸国の商売振りについても、これを会得する機会を持ちませんでした。
 されば私のやり方は外国の模倣でないことはもちろん、全くの自己流でまた純然たる日本風を以て任ずるものであります。そういう意味で本書を公にすることも、商売の道を辿るものにとって、多少の参考になろうかと思うのでありますが、何分毎日の仕事に追われがちで、一貫した系統を立てる余裕がありません。折に触れ事に臨んで断片的に記述したものを集めて、一冊にまとめ上げたのでありますから、前後の順序等もととのっておらず、また時には重複したところもあり、甚だ不完全なものでありますけれど、その意を諒として愛読をたまわりますれば著者の本懐であります。
 本書は以前、トウシン社より出版され、その後久しく絶版となっていました。その間に社会の情勢は激変し、今回高風館のもとめによって再版を計るに当り、現在の事情にあわない箇所もあります。しかし根本の考えにおいては何も変っておりません。併せて読者の諒察せられんことを願います。

   昭和二十七年十月
[#地から4字上げ]著者識
[#改丁]

[#「目次」略]

    独立自尊の精神

 私は明治三年の生れで、生れたところは日本アルプスの山麓の穂高という村です。早稲田大学の前身の東京専門学校に入って、政治学をやったが、二十三年学校を出ると、友人たちはたいてい官途についたものであった。しかし、私はどうしても俸給生活をするのが嫌で、というのは、俸給を貰って生活していたのでは、結
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