伝統の根強さを無視してかかり、自身失敗するに止まらず、傾倒して来た多くの人々を過まらせた例が世間にじつに多いのである。
昭和三年に私は欧羅巴《ヨーロッパ》の方へ行って見たが、いうまでもなくそれらの国々は基督教国であるけれども、パリ、ロンドン、ベルリンなどの都市で、我々のような菓子屋が日曜だからとて休業するのは見受けられなかった。欧州でさえこの状態である。時代と共に推移することもあろうし、何によらず型にはまってその通り行わねばならぬとすると、この通り間違いがある。休日問題に限らず、何事にも欧米の慣習を鵜呑《うのみ》にするのは危いと思われた。
店頭のお客様が大切
本郷の大学付近は、今は他の発展に圧されて目立たなくなったが、その時分はあれで学者学生の生活を中心に、その時代としての新鮮味を盛り、それらの店の中には本郷の何々といわれてかなり魅力を持ったものがあり、あの辺り一帯なかなか活気のあったものである。ちょうど三丁目の所には旧幕時代からつづいている粟餅屋があって、昔一日百両の売上げがあったという誰知らぬものない名代の店であった。
私はある日そこへ粟餅を買いに行ったが、店が閉
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