るお客様ばかりはない。商売は儲かるものと思い、だから安く売ろうと思えばいくらでも安く売れるのだと考えている人が、まだ世間には多いのである。そういう人はこの囮商品の安値に釣られ、正しい値段で売っている方を暴利と見る。誠実な商人にとっては迷惑この上もないことである。
『商売は儲かる』という人は、売上げから元値を引けば、後はそっくりそのまま利益として残るものとでも見るのであろうが、商売はそんなに易々《やすやす》とは行われていない。お客の需《もと》めに応ずるために各種の品物を常に用意し、買ってもらえば袋とか箱とかに入れ、紙で包み紐をかける。配達でもすればなおさらのことだ。いうまでもなく家賃、税金、装飾、電燈電話料、従業員の食費給料、むろん主人家族も生活せねばならない。それらの経費を弁ずるために、仕入値におよそ二割を加算するのが、昔から商売の約束とされてある。日本は生活費が安いから二割で足るが、物価の高い米国ではなかなかこの程度では済まない。最低二割五分、上は四割、五割に達して、まず平均が三割二、三分となっている。
とにかく我々の店で薄利多売を主義として理想的の経営をするとしても、最低一割五、
前へ
次へ
全236ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング