て、見るかげもない、まことにみすぼらしい三文店でありまして、むろん製品だってきわめて貧弱なものでありました。その頃鳥居先生は中村屋の近くにお住いで、私どもにはこういう微々たる時代に、今日ここに御出席下さいました奥様に始終御ひいきにして頂きまして、どんなに有難いことでありましたかしれません。そのうちに先生と奥様は前後して考古学研究のために蒙古の奥地においでになりました。また私どもは新宿に支店を設けて、毎朝本郷から新宿に通い、その後はさらに慌しい日を送るようになりましたので、一時先生にも御遠々しくなり、時々新聞や雑誌を通して、ますます研究の歩を進めておいでになる御様子を知り、主人とお噂申し上げて居りましたが、ついお伺いする機会もなくて居りました。ところが昨年南米ブラジルにおいでになることを新聞で知りまして、私はちょうど病床におりましたのですが、このたびこそはと起き上がり、主人を促して一緒に先生をお訪ねした次第でありました。本郷以来、春風秋雨幾十年は夢の間に過ぎ、鳥居先生は考古学の泰斗として外国にまでお名がひびき、ますます蘊蓄《うんちく》を深められつつあり、奥様もまた先生と同じ学問に志をたて
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