構えと経営方針が確立されるのです。目の前に現れた結果は誰でも見ますが、大切なのは結果とともにその過程を見ることです。すなわち歴史を尊重する所以《ゆえん》です。歴史に暗く、方針の定まらない人は羅針盤を失った船のようなもので、前進どころかたちまち怒濤に押し流されて、ついに船体は転覆するほかありません。
 さて歴史のお講釈は止めにして早速お話に移りましょう。一通り順序を立てて主人の話のあった後ですから、私は断片的にいろいろのエピソードを拾って、中村屋の今昔を偲ぶことにしましょう。

    四畳半と三畳

 主人がこれまで機会のあるごとに話している中村屋創業時代の店員|長束実《ながつかみのる》は、忠実で研究心が深く、その他なかなかよいところのある少年でした。その頃小店員を呼ぶのに名前に「どん」をつけたものです。どんは殿を略したもので、この呼びようには何となく家族的な親しみと、階級を超越した平等観念も含まれていて、それまでにそういう経験を持ったことのない私は、何どんと呼ぶ時にわかに自由な明るい感じと、一種のあたたかさ懐しさを覚えたものです。それゆえ今も私が思い出すのは実《みのる》ではなく、みい
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