ぬ父の介抱、心に任せぬ事もあらむ。母の機嫌を直すにしかじと思ひて「おッ母さん私が悪かつたのだから、堪忍しておくれ、お父さんは病気のせいで、何でも腹を立つんだから、モウよい加減に打捨《うちや》つておおきよ」とはこの少女が思ひ切つて云ひ出せし詞なり。
 ああこの無邪気なる少女をして、かかる詞を発せしむるは、継母の罪か、境遇か、はたまたその責め父にあるか、思へば可憐なるこの少女の、行末何となる事ぞ。父はこの世に在りても亡き身、母は何時《いつ》お袖を捨つるやも知れず。世には流行の三枚重ねの小袖元日の間に合はざりしとて、むづかりたまふ嬢様もあるものを。(『女学雑誌』一八九四年一日六日)



底本:「紫琴全集 全一巻」草土文化
   1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
初出:「女学雑誌」
   1894(明治27)年1月6日
※底本では、文末の日付に添えて『女学雑誌』を示す記号として「*」を用いていますが、『女学雑誌』に直しました。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2004年9月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング