いいのですか」と、船長は言った。
僕らは下に降りて、部屋へはいった。僕らが降りてゆく途中、ロバートは廊下に立って、例の歯をむきだしてにやにや笑いながら、きっと何か恐ろしいことが起こるのに馬鹿な人たちだなといったような顔をして、僕らの方をながめていた。船長は入り口の扉《ドア》をしめて、貫木をかけた。
「あなたの手提鞄だけを扉のところに置こうではありませんか」と、彼は言い出した。「そうして、あなたか私かがその上に腰をかけて頑張っていれば、どんなもの[#「もの」に傍点]だってはいることは出来ますまい。窓の鍵はお掛けになりましたね」
窓の戸は僕がけさしめたままになっていた。実際、僕がステッキでしたように梃子《てこ》でも使わなければ、誰でも窓の戸をあけることは出来ないのであった。僕は寝台の中がよく見えるように上のカーテンを絞っておいた。それから船長の注意にしたがって、読書に使う手燭を上の寝台のなかに置いたので、白い敷布ははっきりと照らし出されていた。船長は自分が扉の前に坐ったからにはもう大丈夫ですと言いながら、鞄の上に陣取った。船長はさらに部屋のなかを綿密に調べてくれと言った。綿密にといったところで、もう調べ尽くしたあとであるので、ただ僕の寝台の下や、窓ぎわの長椅子の下を覗いてみるぐらいの仕事はすぐに済んでしまった。
「これでは妖怪変化ならば知らず、とても人間わざでは忍び込むことも、窓をあけることも出来るものではありませんよ」と、僕は言った。
「そうでしょう」と、船長はおちつき払ってうなずいた。「これでもしも変わったことがあったらば、それこそ幻影か、さもなければ何か超自然的な怪物の仕業《しわざ》ですよ」
僕は下の寝台のはしに腰をかけた。
「最初事件が起こったのは……」と、船長は扉に倚《よ》りながら、脚を組んで話し出した。「さよう、五月でした。この上床《アッパー・バース》に寝ていた船客は精神病者でした。……いや、それほどでないにしても、とにかく少し変だったという折紙《おりかみ》つきの人間で、友人間には知らせずに、こっそりと乗船したのでした。その男は夜なかにこの部屋を飛び出すと、見張りの船員がおさえようと思う間に海へ落ち込んでしまったのです。われわれは船を停めて救助艇《ボート》をおろしましたが、その晩はまるで風雨《あらし》の起こる前のように静かな晩でしたのに、どうしてもその
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