はずみで米のめしがくいたくなるように、産毛《うぶげ》のはえていない肉のしまった肌や黒い眼黒い髪がとつぜん恋しくなる時があるものだ。売れのこりだからいずれにしても美人じゃないし、日本人としてもとくに鼻もひくく眼もほそすぎ、どこにでもころがっている下らぬ女には相違ないのだが、おしろいけのない、一見しろうと[#「しろうと」に傍点]女にもみえる、そのみじまいの無雑作なところが、ちぢらし髪やどくどくしい口紅やいたずらに Actif な紅毛《こうもう》女のエキゾティシズムにはあきあきしている矢先とて、柄にもなく日本へのノスタルジアを感じさせたのだろう。おれは奇態なほどその女にひきつけられてしまった。おれはなかばこころに決めかけながら、しかし声のわるいのだけはごめんだから、はっきりしたわれわれの言葉で、はなしかけてみた。
「今夜はばかに不景気だな」
 すると女は、にこりともせず、ただかさねていた脚をはずしすっくとたちなおるようにして、声だけはつくり声のいくぶんか訴えるような、かなしげな、そのくせ態度は淫売婦どくとくのふてぶてしい人をくった冷淡さをみせて、ささやくような日本語で応じた。
「あら、あんた
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