驍ニ、まだ疑わしそうな顔をしていたが、
「食事を終えたら、ではそろそろ、でてくれたまえ」
といい、ポケットからふとい葉巻をつまみだしてぷいと口をかみきると、隅のがたがたベッドにずしんと腰をおろして、紫のけむりをはきながら、にやにやわらっている。こうしておれは至極順調に、Q署の留置場にほうりこまれてしまった。
留置場で、ごろつきや窃盗やよっぱらいといっしょに、取調べはまだかまだかといらいらしながらまっていると、官服私服の刑事や巡査がいれかわりたちかわり首をだして、
「じゅあん、君のロマンはおもしろいぞ。くだらんものはかくのをやめにして、ひとつ本格的にいったらどうですかね」
と、人をばかにしたようなことをいうのだ。こっちとしたらはやく本格的に取調べてもらいたいところだが、なかなか順番がまわってこない。そのままぽかあんとしてまたされたっきり、いったいどうなることかとひやひやしながら小半時もまっているとね、とつぜん、いきおいよくドアがあいて、官服のあからがおをしたえらそうな人がはいってきた。
「やあ、失敬々々、ムッシュウ・じゅあん」
かれは意外にもてれくさそうな、すまないといった顔つき
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