ひ」に傍点]の上にかけあがりました。しばらくたって人くい鬼が、やっと、もとどおりのすがたになったのを見すまして、猫吉はそろそろ、かけひ[#「かけひ」に傍点]からおりて来ました。
「どうも、じつに、おどろきました。わたくしは、今にもひとつかみになさるかと思って、ぶるぶるふるえていたのでございますよ。ところで、これも人から聞きました話で、あてにはなりませんが、あなたはまた、ずっと小さなけもの、たとえばねずみなら、はつかねずみのような小ねずみなんかにでも、なろうとおもえばおなりになれるということですが、まさかねえ、こればかりは、とても信じられませんが。」
こういって、猫は、うたがいぶかいような目をしました。
「なに、信じられん。」と、人くい鬼はおこってさけびました。「よしよし、すぐ小ねずみになって見せよう。」
人くい鬼は、いうまに、一ぴきのはつかねずみにかわってしまいました。そして、ちょろ、ちょろ、床《ゆか》の上をかけまわりました。猫吉はしめたというなり、すばやく、小ねずみにとびかかるが早いか、あたまから、むしゃむしゃと、たべてしまいました。
五
そのとき、お城のそとのつり橋を、王様の馬車のわたってくる音がきこえました。猫吉は、その音を聞きつけると、さっそく、お城の門のところへ出て行って、王様にこう申しました。
「さあ、どうぞ、王様には、カラバ侯爵《こうしゃく》のお城におはいりくださいまするよう。」
王様は、さっきからこのお城に気がついていました。そして、だれのお城だか知らないが、中はさぞかしりっぱだろうから、はいってみたいものだと、おおもいになっていたところでした。ですから、猫吉がそういうのを聞くと、ますますおどろいておしまいになりました。
「なに、これも侯爵《こうしゃく》のお城。いやどうも、お庭といい、建物《たてもの》といい、こんなりっぱなお城は見たことがないわい。では、拝見《はいけん》しよう。どうぞ案内《あんない》をたのみますぞ。」
王様が馬車からおりると、猫吉は、そのあとからついて行きました。カラバ侯爵《こうしゃく》はお姫さまに手をかして、そのあとにつづきました。やがて大広間にはいると、おかざりしたテーブルの上に、りっぱなごちそうがならんでいました。じつは、このごちそうは、きょう、たずねて来るはずの友だちのために、人くい鬼がしたくしておいたものでした。けれども猫吉は、それがわざわざ、王様やお姫さまのために用意させてあったもののように見せかけました。人くい鬼の友だちも、王様がおいでときいて、えんりょして、かえって行きました。
やがて、みんなはテーブルについて、ごちそうをたべました。王様は、お姫《ひめ》さまとどうよう、侯爵《こうしゃく》のりっぱなひとがらに、すっかりほれこんでおしまいになりました。そのうえ、侯爵《こうしゃく》が、たいへんお金持なのを知って、なおなお、このもしくおもいました。そこで、五六ぱい、さかずきをあげてから、王様は、
「どうでしょう、侯爵《こうしゃく》、おいやでなかったら、姫と結婚《けっこん》してくださいませんか。あなたは、わたしどもにとっては、申しぶんのない方です。」と、いいました。
侯爵《こうしゃく》はそのとき、うやうやしく敬礼《けいれい》したのち、王様の申し出された名誉《めいよ》を、よろこんで、お受けすることにしました。そうしてその日、さっそくお姫さまと結婚しました。
さて、猫吉は、大貴族《だいきぞく》にとり立てられました。それからはもう、やたらにねずみを取ったりしないで、気らくに、その日その日をおくりました、と、さ。
親ゆずりの財産《ざいさん》に、ぬくぬくあたたまっているよりも、若いものは、自分の智恵《ちえ》と、うでを、もとでにするにかぎります。
底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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