すると、アンヌねえさまはいいました。
「日が照《て》って、ほこりが立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
 そのうちに青ひげが、大きな剣《けん》をぬいて手にもって、ありったけのわれがね声《ごえ》を出して、どなりたてました。
「すぐおりてこい。おりてこないと、おれのほうからあがって行くぞ。」
「もうちょっと待ってください、後生《ごしょう》ですから。」と、奥がたはいいました。そうして、ごくひくい声で、
「アンヌねえさま、アンヌねえさま、まだなにも見えないの。」と、さけびました。
 アンヌねえさまはこたえました。
「日が照《て》って、ほこりが立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
「早くおりてこい。」と、青ひげはさけびました。「おりてこないと、あがって行くぞ。」
「今まいります。」と、奥がたはこたえました。
 そうして、そのあとで、「アンヌねえさま、まだなにも見えないの。」と、さけびました。
「ああ。でも、大きな砂けむりが、こちらのほうにむかって、立っていますよ。」と、アンヌねえさまはこたえました。
「それはきっと、にいさまたちでしょう。」
「おやおや、そうではない。ひつじのむれですよ。」
「こら、おりてこないか、きさま。」と、青ひげはさけびました。
「今すぐに。」と、奥がたはいいました。そうして、そのあとで、「アンヌねえさま、アンヌねえさま、まだ、だあれもこなくって。」
「ああ、ふたり馬に乗った人がやってくるわ。けれど、まだずいぶん遠いのよ。」
「ああ、ありがたい。」と、奥がたは、うれしそうにいいました。「それこそ、にいさまたちですよ。わたし、にいさまたちに、いそいでくるように合図《あいず》しましょう。」
 そのとき、青ひげは、家ごとふるえるほどの大ごえでどなりました。奥がたは、しおしお、下へおりて行きました。涙をいっぱい目にためて、かみの毛を肩にたらして、夫《おっと》の足もとにつっぷしました。
「今さらどうなるものか。」と、青ひげはあざわらいました。「はやく死ね。」
 こういって、片手に、奥がたのかみの毛をつかみながら、片手で、剣《けん》をふりあげて、首をはねようとしました。おくがたは、夫のほうをふりむいて、今にもたえ入りそうな目つきで、ほんのしばらく、身づくろいするあいだ、待ってくださいと、たのみました。
 青ひげはこういって、剣をふ
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