アッハッハハハ』
 ニコル氏は凄い声で呵々と大笑した。彼はいつの間にか臆病な、窮屈な田舎出の家庭教師の仮面をかなぐり棄てて、濶達奔放、縦横無碍の調子で喋舌り立てる様になった。プラスビイユは面喰って目ばかりパチクリパチクリさしている。
『ポンと飛び出しやがったぜ、大将! 巣からはね出したんでさあ。ヤイ、親方、二ツの眼球を何にするんだ! 贅沢だ。ソレ、クラリスさん。床の上へころがりましたよ。踏み潰しちゃいけない……ドーブレクの眼球です! 踏み潰しちゃいけませんよってね。ハッハハハ』と笑いながら彼は懐中から一物を取り出して掌でころがし、二三度手毬に取って、また元の懐中へ入れた。
『ドーブレクの左の眼球です』
 プラスビイユは茫然としてしまった。この奇怪な訪問客は何しに来たのか? 全体何を云っているのか? 彼の顔は真蒼になった。
『何の事か解らない』
『解らんとは驚いた。一切説明したじゃありませんか。例の「外部より容易に看破せられざる様巧妙なる細工を施されたし」と云ったのはこれなんでさあ』と云い、またも例の眼球を取り出して、卓上をコンコンと叩いた。堅い音がする。
『硝子の眼球だ』とプラスビイユ
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