ルパル」]は運転台に居《お》る運転手に向って、
『ここに居ちゃ拙《まず》い、正九時半にまたここへ来い、ドジさえふまにゃ荷物が積めるから…………』
『ドジだなんて縁起でもねえじゃありませんか?』とジルベールが不平だ。自動車はいずこともなく引返して行った。ルパンは二人を連れて湖水の方へ歩きながら、
『だってさ、今夜の仕事はおれの目論んだ事じゃあないからなあ。おれが自分で目論んだ事でなきゃ半分しか信用《あて》にしないんだ』
『冗談でしょう、首領《かしら》、わっしだって親方の御世話になってから三年になりますもの……ちったあ手心も解って来てますよ……』
『そりゃ、解っておるだろうさ。それだけになお心配なんだ……さあ乗り込んだ……ボーシュレーは、そっちへ乗れ……よし……出した……出来るだけ静粛《しずか》に漕ぐんだぞ』
グロニャールとルバリュの二人はカジノの少し左手《ゆんで》に当る向う岸に向って一直線に漕ぎ出した。途中で一隻のボートに会った。しばらくするとルパンはジルベールの傍《そば》へ寄って低声で、
『オイ、ジルベール。此夜《こんや》の仕事を計画したなあお前《めえ》か、それともボーシュレーか?』
『誰って事はないんです……二月《ふたつき》ばかり前《めえ》から二人で相談してたんです』
『だがな。おれはあのボーシュレーて奴は信用出来ないんだ……あいつはどうも性質《たち》が悪い……腹黒な野郎だ……なぜおれは早くあいつを追い出してしまわなかったかと思っておるくらいなんだ。どうもあの野郎は気に入らねえ。危険人物だ。しかし確実にドーブレク代議士の出て行くのを見たんだな?』
『現在この眼で見たんでさあ』
『巴里《パリー》へ誰に会いに行ったか知ってるか?』
『芝居へ行ったんです』
『フム。だが召使どもが残っておるはずだが……』
『飯焚女《めしたきおんな》は帰ってしまいましたし、ドーブレク代議士が信用してるレオナールて男は、主人を迎えかたがた巴里《パリー》へ行きましたから、一時を過ぎなきゃ、大丈夫《でえじょうぶ》帰《けえ》って来ません』
『それで襲うたのは、あの公演に囲繞《かこ》まれておる別荘か?』
『そうです、マリーテレーズ別荘ってんです。それに庭続きの両側の別荘ですね。あれが五六日前から明いておるんですから、全くこちとらにはお誂向きでさあね』
『フム、余り簡単過ぎる仕事で、興味がないな』
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