ども門下の桃李猶其栽培に頼るものあり。若夫れ思うて君の私に及べば、君が往年鼓盆の興ありしより、門庭寂寞、中饋人なく、父子相依り、懽少なくして苦多く、晨米暮鹽、君の料理に歸し、弱息穉子、君が撫育を待てり。君が廬を過ぐるごとに、未だ嘗て其不幸を悲まずんばあらざりき。今や君逝けり、存するもの誰れをか恃まむ。嗚呼哀哉。僕君と交ること久しく、君を知ること尤熟す。而して性情氣體の相反すること、亦未だ我兩人に如くものあらず。葢し君の性は駿敏、僕は則ち儒緩、君の體は彊健、僕は即ち羸弱、窃に以爲らく、一朝君に先だち、化して異物とならば、身後の事、應さに君の經紀に頼るべしと。孰れか謂はむ、駿敏なるもの逝いて儒緩なるもの存し、彊健なるもの折れて、羸弱なるもの全からむとは。豈に喬木挺生して風に摧かれ易く、女蘿柔を以て乃ち其根に安ずるの類か。爰に身世を維ひ、以て哀志を申べむとすれば、情結ぼれ哀み切にして、斷絶すべからず。嗟僕の言此に止まる、君聞くか、其れ聞かざるか。嗚呼哀哉、尚くは饗けよ。
[#地から1字上げ](大正十三年、藝文第拾五年第四號)
底本:「支那學文藪」みすず書房
1973(昭和48)年
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