者は三十二枚の竹牌《ちくはい》(牌の目の二面を以て成立った牌)を打つだけのことで、麻将《マーチャン》を知っている者は偽毛唐だけであるが、城内では小さな餓鬼《がき》までが皆よく知っている。なんだって偽毛唐が、城内の十歳そこそこの子供の手の中に入ってしまうのか。これこそ「小鬼が閻魔様と同資格で会見する」様なもので、聴けば赤面の到りだ。「てめえ達は、首斬《くびきり》を見たことがあるめえ」と阿Qは言った。「ふん、見てくれ、革命党を殺すなんておもしれえもんだぜ」
 彼は首をふると、ちょうどまん中にいた趙司晨の顔の上に唾《つばき》がはねかかった。この一言に皆の者はぞっとした。だが阿Qは一向平気であたりを見廻し、たちまち右手をあげて、折柄《おりから》頸《くび》を延して聴き惚れている王※[#「髟/胡」、157−4]のぼんのくぼを目蒐《めが》けて、打ちおろした。
「ぴしゃり!」
 王※[#「髟/胡」、157−6]は驚いて跳び上り稲妻のような速力で頸を縮めた。見ていた人達は気味悪くもあり、おかしくもあった。それからというものは王※[#「髟/胡」、157−7]の馬鹿野郎、ずいぶん長い間、阿Qの側《そば》へは
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