が今度の若い尼は決してそうではなかった。これを見てもいかに異端の悪《にく》むべきかを知るべし。
彼は「こいつはきっと男を連れ出すわえ」と思うような女に対していつも注意してみていたが、彼女は決して彼に向って笑いもしなかった。彼は自分と話をする女の言葉をいつも注意して聴いていたが、彼女は決して艶《つや》ッぽい話を持ち出さなかった。おおこれが女の悪《にく》むべき点だ。彼等は皆「偽道徳」を著《き》ていた。そう思いながら阿Qは
「女、女!……」と想った。
その日阿Qは趙太爺の家《うち》で一日米を搗いた。晩飯が済んでしまうと台所で煙草を吸った。これがもしほかの家なら晩飯が済んでしまうとすぐに帰るのだが趙家は晩飯が早い。定例《じょうれい》に拠るとこの場合点燈を許さず、飯が済むとすぐ寝てしまうのだが、端無くもまた二三の例外があった。
その一は趙太爺が、まだ秀才に入らぬ頃、燈《あかり》を点じて文章を読むことを許された。その二は阿Qが日雇いに来る時は燈を点じて米搗くことを許された。この例外の第二に依って、阿Qが米搗きに著手《ちゃくしゅ》する前に台所で煙草を吸っていたのだ。
呉媽《ウーマ》は、趙家の
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