之鬼餒而《むえんぼとけのひぼし》」これもまた人生の一大悲哀だ。だから彼もそう考えて、実際どれもこれも聖賢の教《おしえ》に合致していることをやったんだが、ただ惜しいことに、後になってから「心の駒を引き締めることが出来なかった」
「女、女……」と彼は想った。
「……和尚(陽器《ようき》)は動く。女、女!……女!」と彼は想った。
われわれはその晩いつ時分になって、阿Qがようやく鼾をかいたかを知ることが出来ないが、とにかくそれからというものは彼の指先に女の脂がこびりついて、どうしても「女!」を思わずにはいられなかった。
たったこれだけでも、女というものは人に害を与える代物《しろもの》だと知ればいい。
支那の男は本来、大抵皆聖賢となる資格があるが、惜しいかな大抵皆女のために壊されてしまう。商《しょう》は妲己《だっき》[#「妲己」は底本では「姐己」]のために騒動がもちあがった。周《しゅう》は褒※[#「女+以」、第3水準1−15−79]《ほうじ》のために破壊された? 秦……公然歴史に出ていないが、女のために秦は破壊されたといっても大して間違いはあるまい。そうして董卓《とうたく》は貂蝉《てんぜん
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