太を整列した門が彼の後ろを閉じた。その他の三方はキッタテの壁で、よく見ると室《へや》の隅にもう二人いた。
阿Qはずいぶんどぎまぎしたが、決して非常な苦悶ではなかった。それは土穀祠《おいなりさま》の彼の部屋はこの部屋よりも決してまさることは無かったからだ。そこにいた二人は田舎者らしく、だんだん懇意になって話してみると、一人は挙人老爺の先々代に滞っていた古い地租の追徴であった。もう一人は何のこったか好く解らなかった。彼等は阿Qにわけを訊くと、阿Qは臆面なく答えた。「乃公は謀叛を起そうと思ったからだ」
阿Qは午後から丸太の門の外へ引きずり出され大広間に行った。正面の高いところにくりくり坊主の親爺が一人坐していた。阿Qはこの人は坊さんかもしれないと思って、下の方を見ると、兵隊が整列して、両側に長い著物を著た人が十幾人も立っていた。その中にはイガ栗坊主の親爺もいるし、一尺ばかり髪を残して後ろの方に披《さば》いていた偽毛唐によく似た奴もあった。彼等は皆同じような仏頂面で目を怒らして阿Qを見た。阿Qはこりゃあきっとお歴々に違いないと思ったから、膝の関節が自然と弛んでべたりと地べたに膝をついた。
「立って物を言え、膝を突くな」と長い著物の人は一斉に怒鳴った。
阿Qは承知はしているが、どうしても立っていることが出来ない。我れ知らず身体《からだ》が縮こまってその勢《いきおい》に押されて揚句《あげく》の果ては膝を突いてしまう。
「奴隷根性!……」と長い著物を著た人はさげすんでいたようだが、その上立てとも言わなかった。
「お前は本当にやったんだろうな。ひどい目に遭わぬうちに言ってしまえ。乃公はもうみんな知っているぞ。やったならそれでいい。放してやる。」とくりくり坊主の親爺は、阿Qの顔を見詰めて物柔かにハッキリ言った。
「やったんだろう」と長い著物を著た人も大声で言った。
「わたしはとうから……来ようと思っていたんです……」阿Qはわけも分らず一通り想い廻して、やっとこんな言葉をキレギレに言った。
「そんならなぜ来なかったの」と親爺はしんみりと訊いた。
「偽毛唐が許さなかったんです」
「※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]《うそ》を吐《つ》け。この場になってもう遅い。お前の仲間は今どこにいる」
「何でげす?」
「あの晩、趙家を襲った仲間だ」
「あの人達は、わたしを喚びに来ません。あ
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