半は木偶の棒で※[#「けものへん+章」、第3水準1−87−80]々のような顔に鼠のような目がついており、厭なものであった。それでも彼女はそれが何であるかは判らないし、ただ面白くもあり五月蝿くもあった。悪戯に手を触れてみると、ただクルクル廻るばかりで、しかもその廻り方は速くなるばかりである。その藤は、泥と水にまみれて、地上をうねっているが、その様は煮湯をかけられた赤い蛇のようである。泥も、藤から嵐のように飛び濺いでは空中でオギアオギアと鳴く小さいものになり、あちらに爬《は》いこちらに爬い、地面一杯になった。
彼女はほとんど失神せんばかりになっていっそう激しく廻していたが、腰や腿が痛むばかりではなく、二つの臂の力もなえて来たので、知らず知らず身を縮め、頭を高い山にもたせ、緑したたる黒髪を山の頂に載せ、一息つくと、両眼を閉じた。紫藤は、彼女の手から落ち、それも疲れ果てたようにぐったりと地面に横わった。
二
ドウウ※[#感嘆符三つ、251−6]
この天地の崩れる音響で、女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]はハッと目を醒まし、東南の方へ一散に駆け出した。彼女は脚を伸して踏み止まろうとしたが、何にも踏みしめるものがない、慌てて臂を伸ばし、山の峰にしがみついたが、それだけではもう辷《すべ》り落ちる様子がなかった。
しかし彼女は、また、水と砂とが後の方から、自分の頭や体に押寄せてくるように感じたので、振りかえってみるとザブンと一つ、口と耳に水が灌《そそ》ぎかかって、急に頭を下げたが、地面は絶えず揺れている。幸に、その動揺も静まり、彼女は少し後に退り、体を楽に坐り直し、手で額から眼のあたりの水を拭い、様子いかんをよく見たのであった。
様子は余りハッキリしないが、到るところ滝のように水が流れている、海中のようであり、所々に尖った波が立っている。彼女はただ呆然としてなすところを知らなかった。
しかしとうとう非常に静かになって、ただ以前の山のように高い大波があり、陸地の所々に角立った巌頭《がんとう》が露出している。彼女が海上を眺むれば、ただ幾つもの山が奔り流れつつ波間に旋転している。彼女は、その山が自分の脚にあたるのをよけようとして、手を伸してそれを捉えたが、その山のひだを見ると、今まで見たことのないようなものが、たくさんついている。
彼女が手を縮めて、山を近くに引寄せてよく見ると、それらのものの周りの地上には、金色の玉の粉末が乱雑に散らばっており、また、かみ砕いた松柏の葉や魚の肉が雑《まざ》っている、それらが続いて、ポツリポツリと頭を上げてきた。女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]は眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ったが、それは自分が先ほど作った小さいものであるということが、容易《たやす》く判った。しかし不思議にも、何かで体を包んでおり、またそのうちの幾つかは顔の下半部に雪のように白い毛をはやしており、それは海水のために粘りついているが、尖った白楊の葉のようである。
「おやあ!」彼女は訝りかつ怖れて叫んだが、その膚《はだ》には粟が生じ、毛虫にでも触ったようである。
「天に在《まし》ます神よ、助けたまえ……」顔の下半部に白いもののはえている一つが、頭を上げ、嘔吐を催しつつ、途切れ途切れにいうのであった。「助けたまえ……身どもは仙術を学ぶものである。懐劫《かいごう》が到来して、天地が分崩するとは、誰が予期したろうか。……今|幸《さいわい》にして、天に在《まし》ます神にお出会いしましたが、蟻の命を助けたまえ、また仙……仙薬を授けたまえ……」彼は頭を上げたり下げたり、異様な恰好をしている。
彼女はただ茫然として、「何?」としかいい得なかった。
それらのなかの他の多くのものどもも、一様に嘔吐しながら、「神よ神よ」と叫んでは、それに続いて、また皆《み》んな異様な恰好をする。彼女は、それらのものに悩まされて、この一引きがとうとうわけのわからぬ禍《わざわい》を引き起したことをすこぶる後悔した。彼女は思案に暮れて、四方を見渡したが、一群の大きい亀が海面に嬉々として戯れているのが見えた。彼女は覚えず非常に喜び、直ちにその山を彼等の背中に載せ、「もう少し平穏なところに載せていっておやり!」と言いつけた。大きい亀どもは、肯いた様子をして、群《ぐん》をなし隊を結んで、それを載せて行った。しかし前の方が牽きすぎて、山の上から顔に白い毛のある一つ振り落され、その時早く水面にも落ちず、海辺に俯伏《うつぶし》になって、自分の脣《くちびる》を打った。女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]は可哀想に思ったがそのままにしといた。彼女は本当にそんなことに構っている暇もなかった。
彼女は一息吹いて、少し気持が
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