してなまじい自由平等の話を覚えさせたら、それこそ一生涯の苦痛だろう。わたしはアルチバセフの言葉を借りて君達に訊ねる。君達は黄金時代の出現をここらの人達に予約した。しかしここらの人達は一体何を与えられたか。
 おお、造物の皮鞭が中国の脊髄の上に至らぬ時、中国はすなわちとこしえにこの一様の中国である。それ自身は決して一枝毫末《いっしごうまつ》の改変をも肯《き》き入れない。
 君達の口の中には毒牙のあり得るはずがない。しかし何故《なにゆえ》に『蝮蛇《まむし》』の二大|文字《もんじ》を額の上に貼りつけて、ひたすら乞食を引張り出して打殺そうとするのか」
 Nの話はますます冴えて来たが、わたしの顔色が、あまり聞きたくないようであると見るや、たちまち口を噤《つぐ》んで立上り帽子を取った。
「帰るのか」
「ウン、雨が降りそうだからな」
 わたしは黙々として彼を門口に送り出した。彼は帽子をかぶって言った。
「いずれまた会おうよ。お邪魔して済まなかった。あすはいい按排に双十節でないから、我々は何もかも忘れていい」
[#地から4字上げ](一九二〇年十月)



底本:「魯迅全集」改造社
   1932(昭和7)年11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の書き換えをおこないました。
「或→ある 或は→あるいは 一層→いっそう 被仰る→おっしゃる 却って・反って→かえって か知ら→かしら 且つ→かつ 曽て→かつて 爰に→ここに 御座います→ございます 此・此の→この 此→これ 併し→しかし 而も→しかも 即ち→すなわち 其→その 大分→たいぶん 只→ただ 忽ち→たちまち 度→たび 為め・為→ため 一寸→ちょっと 就いて→ついて (て)置く→(て)おく (て)仕舞う→(て)しまう 何処→どこ 尚お→なお ※[#「(來+攵)/心」、第4水準2−12−72]い→なまじい 筈→はず 甚だ→はなはだ 程→ほど 先ず→まず 益々→ますます 又・亦→また 未だ→まだ ※[#「にんべん+淌のつくり」、第3水準1−14−30]し→もし 八釜しく→やかましく 矢張り→やはり」
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(荒木恵一)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2008年5月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング