と一台の人力車をめっけ、それを雇ってS門まで挽かせた。まもなく風は小歇《おや》みになり、路上の浮塵《ふじん》はキレイに吹き払われて、行先きには真白な大道が一すじ残っていた。車夫は勢込んで馳《か》け出し、S門に近づいた時、車はたちまち人を引掛けてふらふらと挽き倒した。
躓《つまず》いたのは白髪交りの一人の女で著物《きもの》はひどく破れていた。彼女は車道の隅から車の前を突然突切ろうとしたので、車夫はこれを避けたが、彼女の破れた袖無しに釦《ぼたん》がなかったため、風に煽られて外に広がり、梶棒《かじぼう》に引掛った。幸《さいわい》に車夫の方で素早く足を留めたからよかったものの、でなければ彼女は大きな飜筋斗《とんぼがえり》を一つ打って、ひっくりかえり、頭から血を出したことだろう。
彼女は地に伏した時車夫は足を留めた。
わたしは、この老女が怪我した様子も見えないし、ほかに見ている人もないから、余計なことして附け込まれ、手間を取っては困ると思い
「何でもないよ。早く行ってくれ」
と車夫を促し立てた。車夫は肯《き》き入れず――あるいは聞えなかったかもしれぬ――轅《かじ》を下におろし、その老女を
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング