え」と男は真面目|相《そう》に「あなたはあの菓子をもう一度持って来なくてはいけないね」
「あら、あなたは大事な話の方をよくきいて下さらなくてはいけませんわ」とローラは負けずにいった、「では始めに、私のお父さんがラドベリーに『赤魚軒《せきぎょけん》』という料理屋を出していた事からお話しいたしましょう。そしてそこで私は酒場の給仕女をつとめていましたの」
「どうりで私は、この菓子屋にはどこか基督《キリスト》教くさいところがあると実はふしぎに思っていたんだよ」
「ラドベリーは東部地方にある眠たそうな、草深い小さい穴ぼこのような土地ですの、そして『赤魚軒』へ来る客といったら、時折旅の商人が来るくらいで、その外は、あなたなぞは見た事のないような、それは恐ろしい人達ばかりですわ。みんなごろつきのような連中でしてね、それあひどい着物を着けて、酒場へ来て椅《よ》りかかってるか賭馬《かけうま》でもして何んにもせずにブラブラしてるんですの。けれど、そういうごろつきでも、少しくらいは平凡でないところもあるもんですの、その中に、全く平凡すぎるくらい平凡な二人の男が居たんですの。その人達は自分のお金で生活をしてま
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