において迫害されました。彼はさびしい狂人でした。共に同盟されていた正気な全社会は彼を救いもしなければまた殺しもしませんでした。私は時々私の迫害者はこの人かあの人間であったかどうかを騒ぎ立てたり不安になったり不審がったりしました。それはターラントであったかどうか、それはレオナルド・スミスであったかどうか、それは彼等のうちの一人であったかどうか、彼等が全部それであったと考えてごらんなさい! それはボートの上の凡ての人または汽車あるいは村における凡ての人であったと考えてご覧なさい。私が関係した範囲では、彼等は皆殺人者であったと、見なします。私は暗黒の内部をはいまわってきました。そしてそこには私を破滅さすに相違ない人間が居りましたからおどろかされるのは当然であると思いました。もしその破壊者がこの世に出て全世界を所有し、そしてあらゆる軍隊を指揮したら、それはどんなものでしたろうか? もし彼が全世界を塞ぎあるいは私の穴から私を煙り出しまた明るみに私の鼻が出た瞬間に私を殺すことが出来たらどんなものでしょうかね? 全世界に殺害が行われたらどんな風でしたかな? 世界はこれ等のことを忘れています、ちょっと前まで戦争を忘れていたようにですな」
「そうじゃ」師父ブラウンが言った、「しかし戦争が起りましたじゃ、魚は再び地下におしこめられるかもしれん、だがもう一度この明るい太陽の光りのもとに出て来るじゃろう。セント・アントニーが諧謔的に注意したように、ノアの大洪水に生き残るのははただ魚だけじゃ」
底本:「世界探偵小説全集 第九卷 ブラウン奇譚」平凡社
1930(昭和5)年3月10日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「或→あ・ある・あるい 恰も→あたかも 貴方→あなた 如何→いか・どう 何時→いつ 一層→いっそう 於→お・おい かも知れ→かもしれ 斯様→かよう 此・斯→こ 極く→ごく 然し→しかし 然も→しかも 直ぐ→すぐ 即ち→すなわち 其→そ・その 其処→そこ 其の中→そのうち 其奴→そやつ 度い→たい 大部→だいぶ 沢山→たくさん 丈→だけ 只・唯→ただ 度→たび 多分→たぶん 偶々→たまたま 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと て居→てい・てお 逐々→とうとう 何処→どこ 兎に角→とにかく 尚→なお 中々→なかなか 何故→なぜ 筈→はず 程→ほど 殆ど→ほとんど 正に→まさに 先ず→まず 亦・又→また 迄→まで 儘→まま 間もなく→まもなく 勿論→もちろん 俺→わし」
※底本中、混在している「ビザンテン」「ビザンティン」、「スマイル」「スメエル」「スメール」、「ユダヤ」「ユダア」、「タアラント」「ターラント」「ターアラント」、「ウォルター」「ウォルタース」は、そのままにしました。
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(荒木恵一)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年8月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェスタートン ギルバート・キース の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング