当然なことです。一人で三役勤めているんです。子供にだってこんな問題はわかりますよ。まず屍体はウソだから取除けますよ。』
『ふん!』
『あとにはスパルミエント大佐と、ルパンとの二人が残るでしょう。』
『ふん!』
『それから、他から入っていないし、内の者にも他にはないのですから、スパルミエント大佐こそは‥‥』
『ルパンか?』
『そうです。課長! ブレジリヤの富豪という化の皮を被って、彼奴《きゃつ》は六ヶ月前にスパルミエント大佐と称し、英国を旅行している中あの綴れ錦の壁布の発見されたことを聞いてそれを買い込むと、その中一等良いのを盗まれたと言ってルパンに世人の注意を向け、ルパン対スパルミエントの大芝居で世間の人気を集め、招待会で来客を驚かし、すっかり膳立が出来ると、献立通りの御馳走を頂戴したのです。大佐は死んでしまった。友達からは惜しまれ、世間からは気の毒がられ、そして本体の最終目的たる多大の利益を握るために‥‥』と言いかけて、刑事は課長の顔色をうかがいながら、
『愛妻を残しておいたのです。』
『エジス夫人だね。』
『そうです。』
『君は本当にそう思うか?』
『思いますとも。目的もないのに、こんな芝居をやるものですか。それは莫大な利益!』
『だって、利益と云った所で、ルパンが壁布‥‥を亜米利加《アメリカ》とかへ売るというだけのものだろう。それなら‥‥』
『それなら、スパルミエント大佐にだって売れます。こんな芝居をやるがものはありません。』
『じゃア。』
『外にもっと金の這入ることがあるんです。』
『金が這入るというと?』
『そら、課長! スパルミエント大佐は初め一枚盗られた時、大損害だと言って騒いだでしょう。そして今度大佐は死んでも、後に妻君が残っているでしょう。そらその妻君の手に入るじゃありませんか?』
『入るって? 何が!』
『何がって? そら、保険金が!』
 聞くと同時に、ジュズイ氏はあまりの驚きにウウとうなった。初めて事件の真相が彼の面前に展開されたのである。

          七

『や、なるほど、そうだそうだ、大佐は壁布を保険に掛けたな。』
『しかも、少々ではありません。』
『いくらだ?』
『八十万フラン。』
『八十万フラン!』
『そうです、五つの会社へ‥‥』
『夫人はもうそれを請取ってしまったか?』
『昨日十五万フラン、今日は私の居ない間に二十万フラン。
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