出した。
『全力を上げて研究しました。色々の方法も皆同じ結果に集って来ました。それは私の確信を与えたものです。それは真に驚くべき理知的な方則《ほうそく》です。』
『ふむ!』
『理論から云っても、実際から云っても、この窃盗は邸内に住んでいる共犯者の手を借りなければ行うことは出来ません。しかるに、その共犯者が無いのです。』
『変だね、どうして共犯者が無い?』
『実に変です。しかし、もう一歩進めて考えると同時に、それは恐ろしい真理にぶつかります。』
『えッ?』
『実に捕え所のないほどの真理です。しかし十分の根拠があるんです。課長! お解りになりませんか?』
 ジュズイ氏はしばらく沈黙した。そして課長にも主任刑事の胸中と同様の思索が波打って起った。
『来客でもなく、召使でもなく、探偵達でもないとすると?』
『まだ、残っている人がありますよ。』
 ジュズイ氏は愕然として身を震わせた。

          六[#「六」は底本では「七」]

『だって君、そんな事があるはずはない。』
『なぜです?』
『まア、考えてみたまえ。』
『はい。』
『そんな、そんな馬鹿な事が‥‥』
『どうしてです?』
『考えられもせんじゃないか。そんな馬鹿々々しい。スパルミエントがルパンの共犯者だなんて!』
 ガニマールはニヤリと笑った。
『御もっともです。しかしお考え下さい。大佐がルパンの共犯者とすると、すべての問題を解くことが出来るんです。夜中に三人の探偵が階下で見張っている間に、いや、むしろ、大佐から強いシャンペンの御馳走になって、前後も知らず眠っている間に、大佐は壁布をはずし室の窓から外へ出しました。その方面の階下の室の窓は、全部塗りつぶされてあり[#「り」は底本では欠落]ますから見張っていない街の方の窓の方からです‥‥』
 課長は笑い出した。
『駄目々々。』
『なぜです?』
『なぜと云って、大佐がルパンの共犯者とすると、仕事のすんだ後殺されるわけはないじゃないか。』
『どうして大佐が殺されたというんです?』
『現在、死体が出たじゃないか。』
『ルパンは決して人を殺しません。』
『だって、事実は仕方がない。しかもスパルミエント夫人が死体を承認したじゃないか。』
『そのお言葉を待っていました。実は私もここで大いに頭を悩したんです。突然二人が三人になったのですから‥‥。第一がアルセーヌ・ルパン、第二が
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