ュレーでも御前でもいい間抜けだわい……』
 とは云ったものの室内の品物を見渡した時には、ルパンの怒気もやや和らいだ。そこには好事家の垂涎三千丈すべき数万金に値する家具家什ばかり。ルパンはしばし我れを忘れて恍惚とした。
 やがてジルベールとボーシュレーとはルパンの指揮に従って敏速な活動を開始した。物の三十分とも経たない内に一隻のボートに一杯になった。グロニャールとルバリュとはこれを例の門前に待たしてある自動車に積み込むために出かけた。
 ルパンは端艇《ボート》の漕ぎ出したのを見とどけてから、再び邸《やしき》へ引き返して玄関を通ると、ふと事務室の方に当って人声が聞えた。早速そこへ入って見ると書記のレオナールが高手籠手《たかてこて》に縛されて床の上に俯伏せに倒れていた。
『オイ、コラッ、唸っておるのは秘書官閣下か? まあ亢奮しないで待っていろよ。モウすぐ終るからな。君がギャギャやかましい声を立てると、厭でも痛い目に合わせなきゃならないてものさ。……まあ、辛抱しろよ……』
 と云い棄てて階段を上《あが》ろうとすると、またもや同じ声が聞こえる。耳を澄ますと、それは嗄《しゃ》がれた、呻《うめ》く様な声で確かに書記の居《お》る室から来るらしい。
『助けてくれ! ……人殺し! ……助けてくれ! ……殺されそうだ……警察へそう云ってくれ……』
『奴《やっこ》さん、気が狂ったんだな』とルパンは呟いた。
『畜生、今頃警察々々って騒いだってどうなるものか、馬鹿野郎めが……』
 彼は委細構わず仕事を続けたが、後から後から珍品が出て来てどうしても残す気になれなかったのと、今一ツにはボーシュレーとジルベールが下らぬものに目を付けて熱心に捜し廻ったために案外時間がかかった。
 ついに彼も辛抱し切れなくなって、
『もうたくさんだ。いくら目星《めぼ》しいからって洗いざらい持って行かれるものじゃあない。自動車も待っておるんだ。さあ端艇《ボート》に乗ろうよ』
 彼等は湖水の岸まで来た。ルパンは先に立って階段を下りた。とジルベールがその袖を引いて、
『ねえ、首領《かしら》、もう一遍ぜひ捜したいんです。たった五分間でいいから捜さして下せえ』
『え、なぜだい、もう大抵にしろよ』
『実ァこうなんです……何んでも話に聞くにゃあ、古い聖骨匣《せいこつばこ》があるんでさあ……実に素敵なんですって……』
『それがどうだ?
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