面目な顔をしながら、馬鹿叮嚀におじぎをしている。
 二人は博士をその叢に寝かせて自動車に乗った。自動車は全速力で走り出した。
「君、もう好い加減に手を引いたらどうだい、そういったところで君は止めはしないだろう。しかし君があのエイギュイユの秘密を探し出すまでには、まだまだ幾年掛るか分らない、俺だって十日掛ったよ。このアルセーヌ・ルパンだってさ。君なら十年はきっと掛るね。俺と君とはそれだけ違いがあるのさ。」

        五 奇巌城
            三角形をなす都会

「俺だって十日は掛ったよ。」
 自動車の中でルパンのいったこの言葉を、ボートルレは聞き洩《もら》さなかった。ルパンが十日掛ったのなら、ボートルレにもきっと十日で出来ないことはない。いかにルパンだって自分とそんなに違う理由《わけ》がない。もともとこの事件の起りは、あの紙片《かみきれ》をルパンが落したからではないか、ルパンだってそんな大きな過ちをしているのだもの。ボートルレはヴェリンヌ男爵邸で読んだだけの本と、覚えている暗号とを頼りに一生懸命考え始めた。毎日部屋に閉じ籠《こも》って、それより他のことは考えなかった。き
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