、ルパンだなんていうからこの連中は恐れて加勢しなかったんだぜ。でなけれや、俺は負けるところだった。」ルパンは一人の下男に向い、「おいお前だったな、さっき俺が百|法《フラン》小切手をやったのを返してくれ。この不忠者め!……」
 一人の下男が恐る恐るそれを返すと、ルパンはそれを破ってしまった。そして帽子を手にとって夫人に向い、叮嚀に頭を下げた。
「どうぞお免《ゆる》し下さい。坊ちゃんは一時間もすればきっと醒めます。どうぞあの本のことだけはいわないで下さい。」
 そして男爵にもおじぎをしてステッキをとり上げ、巻煙草に火を点け[#「点け」は底本では「黙け」]、ボートルレに、「[#「「」は底本では欠落]さよなら、坊ちゃん。」と嘲ったようにいって悠々と出ていった。
 ボートルレはじっと身動きしなかった。しかし少年はもう夫人が決して話してくれはしないということが分ったので、すごすごと男爵の邸を出て考えながら歩いていった。
「おい、君どうしたい?」
と、いいながら、路傍《みちばた》の林の中から出てきたのは、さっきのマッシバン博士、否アルセーヌ・ルパンであった。
「君の来るのを待っていた。どうだい、うま
前へ 次へ
全125ページ中96ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング