れていた。身装《みなり》はちょうど英国の僧侶のように黒い物ずくめで、見るからに自然と頭の下《さが》るような、いかめしさと重々しさとをそなえていた。やがてその紳士は口を開いた。
「ボートルレ君、我輩《わがはい》はまず君に、君が我輩の手紙を見て気持よく逢ってくれたことに、御礼を申し上げなければならない。」
「そして、あなたが?……」とボートルレはいった。紳士はじっとボートルレを見ながら静かにいった。
「そう、我輩です、アルセーヌ・ルパンです。ボートルレ君。」
 アルセーヌ・ルパン!おお彼巨人アルセーヌ・ルパンは再び姿を現わした。かの僧院の陰惨な土窖《つちあな》の中に苦しみ悶え、ついに無惨な死を報ぜられたアルセーヌ・ルパン!彼はやはり生きていたのであった。しかも今見る彼ルパンの元気溢れていることよ!彼はボートルレ少年に逢い、何をしようとするのであろうか。
「我輩は……」とルパンは笑いながらいった。
「我輩はとにかく出来る限り活動するのです。そのためには種々《いろいろ》な手段もとらなければならない。我輩はもう君が、自分の身の危険には構われないということを知りました。残るところは君のお父さんです
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