ルレはいきなり叫んだ。
「どうも私たちにも分らないんです。」とフロベルヴァルは溜息をつくばかりであった。
少年は二人を近くのコーヒー店にさそって、あれこれと尋ねた。
その話によると一昨日は少年の父親は一日部屋にいたというのである。娘のシャルロットが夜の御飯を持っていってやったのだった。それだのに翌《あく》る朝の七時にはもうその姿が見えなくなっていた。寝床も室の中もきちんとなったままであった。
「机の上にはいつも読んでいらしった本がおいてあって、本の中にはあなたの写真がはさんでありました。」とフロベルヴァルがいった。
「どれお見せ下さい。」
フロベルヴァルから渡された写真を一目見たボートルレは、はっと驚きの色を浮べた。それはなるほど自分の写真には違いない。ジェーブル伯邸の僧院の側《そば》に立っている自分の写真である。しかし少年は僧院の前などで写真を写した覚えはない。
「分りました。」と少年は叫んだ。「この写真は私の知らないものです。きっと判事の書記が私の知らない時に写しておいたのでしょう。そしてこの写真でうまうまと父親をおびき出したのです。父は写真を見てきっと私が外に来ているものと思ったのでしょう。」
「しかし誰が、誰が私の家の中へ入ってきたのでしょう?」
「それは分りませんね、だが父がこの写真で騙されたのはきっと本当です。港へ大急ぎで行って、誰かに尋ねて調べてごらんなさい。」
フロベルヴァルは全く驚き入ったというような目つきでボートルレの顔を見ていたが、帽子を握って、
「シャルロット、お前も一緒に港まで行くかい?」
「いや。」ボートルレはそれをさえぎって、「僕はお嬢さんに種々《いろいろ》話し相手になってもらいたいことがありますから。」
少女の罪
フロベルヴァルは出ていった。ボートルレと少女とは室の中に二人きりになった。少年と少女は眼を見合わした。ボートルレは優しく少女の手をとった。少女はしばらく黙ってそれを見ていたが、急に両腕の間に顔をうずめて泣き出した。ボートルレは言葉静かに、
「ね、みんなあなたがしたのでしょう、よその知らない男が、あなたにこの写真を持っていってくれって頼んだんでしょう、そしてその男はリボンでも買えってお金をくれたんでしょう、ね、あなたは写真を父のところへ持っていってやり、外出の仕度もしてやったんでしょう。」
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