」
三人のいかめしい顔は、にこにこ顔になった。もう一人の役人がいった。
「よし、われわれは、船長の同情者になろう。そうだ、同情の手はじめに、入港税、碇泊船税、また、水先案内料と、曳船《ひきぶね》料金は、役所から寄付しよう。そのほか、なにか助力することはないか」
私はそこで、
「さしあたって、よい飲料水がほしい」
というと、
「なに、よい飲料水。たやすいことだ。水船《みずぶね》は、船長が船に帰るまえに、龍睡丸に横づけになっているだろう。電話で、すぐ命令を出すから……」
といった。
私は役所を出ると、すぐその足で、この始末を報告のため、日本領事館へ行った。領事は、
「それはよかった。それから、あなたの船の修繕費は、全部、在留日本人が、寄付することにきまりましたから、安心して、じゅうぶんに修繕してください」
と、いわれた。これを聞いたときは、同胞のありがたさが、まったく骨身にしみた。そして、その金額は、一週間であつまった。
こうして、ホノルルの役人の、思いちがいを正して以来、龍睡丸のひょうばんは、急によくなって、外国新聞が、毎日なにか、私たちをほめた記事を、のせはじめた。
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