もそろった。何から何まで、丈夫に修繕ができあがり、生まれかわった元気なすがたになったのだ。
四月四日の朝となった。龍睡丸には、水先案内人が乗り組み、港の曳船にひかれて、いよいよ港外に向かった。
大日章旗《だいにっしょうき》が、船尾にひるがえっている。これもみな、兄弟である日本人と、友である外国人たちの、あたたかい心によるものだ。港に碇泊している外国船の人たちも、甲板に出て、曳船にひかれて出て行くわが龍睡丸へ、帽子をふり、手をあげて、見送ってくれるではないか。
黒煙をあげて走る曳船は、港の口から外海《そとうみ》に、龍睡丸を、ひきだした。港外には、いい風がふいている。
曳船と龍睡丸をつなぐ、曳索《ひきづな》をはなった。水先案内人は、それではと、私とかたい握手をして、
「では、ごきげんよう船長。愉快な航海をつづけて、たくさんのえものをつんで、日本に安着してください」
といって、龍睡丸が舷側《げんそく》にひいてきた、水先ボートに、乗りうつろうとして、大きな声でさけんだ。
「郵便をだす人はないか。故郷へ、手紙を出す人はないか。これが最終便だよう――」
しんせつな水先案内人のことばだ。もう龍睡丸は、日本につくまで、何ヵ月の間、手紙を出すてだてはないのだ。
「ありがとう。もう、みんな出しました」
それでかれは、にっこりうなずいて、手をあげた。そして、曳船に、こんどは、自分の小さな水先ボートをひかせて、港へ帰っていった。
見かえる港も、だんだん遠くなる。さらば、ホノルルの港よ。思いがけないことで、多くの内外人から受けた好意を、しみじみありがたいと思うにつけても、心にかかるのは、占守《しゅむしゅ》島の人たちだ。どんなに、龍睡丸を待っていることであろう。もう、矢のように飛んで帰らなくては――しかし、私たちのゆくてには、思いがけない運命が、待っていたのだ。
故国日本へ
龍睡丸《りゅうすいまる》は、いまこそ、大自然のふところにいだかれて、大海原の波の上に勇ましくうかんだ。そして、気もちよくふく風に帆をはって、ハワイ諸島の無人の島々にそって進む航路に、船首を向けた。
まっすぐに日本に向かうと、距離は近くなるが、とちゅう、海が深くて、魚がすくない。それで、まわりみちではあるが、島をつたって、進むことにしたのだ。
それは、この島々のまわりには、魚や鳥が、多くいるにちがいないから、そのようすを、よく調査するのと、もう一つは、昔は、このへんの島近くに、まっこう鯨《くじら》が多くいた。それを追いかけた捕鯨船が、無人の小島を、発見したこともあったのだ。それだのに近ごろは、まっこう鯨が、いっこうにすがたを見せなくなってしまった。それはたぶん、鯨のたべものであるイカやタコが、このへんにいなくなったのであろう。
あるいは、海流がかわると、鯨もいなくなることがあるから、海流がかわったのかもしれない。そういうことも調べてみたい。
もし、鯨が見つかったら、どんなに勇ましい、鯨漁ができるであろう。たのしみの一つに、これが加えてあった。
それから、飲料水についても、考えねばならなかった。タンクは、大小二個あるといっても、船が小さい。もし、飲料水がなくなった場合、どの島にも、水があるわけではない。ミッドウェー島に船をよせて、清水《せいすい》をくみこんで行こう。これも、島づたいに行く、理由の一つであった。
しかし、島づたいといっても、一つの島からつぎの島へは、帆船であるから、風のつごうにもよるが、三日も四日もかかるのである。
さて、どの島でも、近くに行くと、魚がたくさんいた。また、海鳥――アホウドリ――が、たいへんにむらがっていて、ふかもよくつれた。しかし、いくら漁があるからといっても、一つ島でぐずぐずしてはいられない。一日も早く帰らなければならない急ぎの航海だ。島々をしらべることも、適当にきりあげては進んだ。
はじめに見たのが、ニイホウ島であった。荒れはてた、岩ばかりの島で、人は住んでいない。しかし、大昔には、人が住んでいたので、ひくい石の壁でかこまれた、式場らしいところや、たくさんの石像《せきぞう》が残っているし、また、昔、船で渡ってきた人たちが残していったものもあって、博物館のような島である。海鳥も、魚も、多かった。
つぎに見たのは、海底火山《かいていかざん》がふきだした熔岩《ようがん》でできた、ごつごつの島であった。島の根は、海中にするどくつき立って、あくまで、波と戦っていた。
大洋からおしよせる青い波の大軍は、一列横隊となって、規則正しく、間隔をおいて、あとからあとから、岩の城めがけて、突進し、すて身のたいあたりをする。そのひびきは、島をゆるがし、まっ白にくだけた波は、くずれ落ちて、岩の根にくいつく。また、はねあがるしぶきは、
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