ありったけもやそう。かめの甲、魚の骨、かれ草、油、これもありったけもやしつづけよう。見はりやぐらにのぼった者も、海岸に立った者も、やみをすかして、黒い海を見つめるのであった。今にも船が帰って来るかと、いや、どうぞ帰って来ますようにと、心に念じ、全身を目にして……

 一方、われらの伝馬船では、ゆくてのやみの水平線に、かすかな火《ほ》さきを見つけた。
「島で、火を見せている」
「みんな、待っているぞ」
「みやげものに、たまげるぞ」
 たいせつなたきものを使って、火をあげているのを見ては、櫓を漕ぐのにも、しぜんと力がはいる。それに追潮だ。船足ははやい。伝馬船のへさきは、火の方に向いていたから、そのままうんと漕いだ。
 島のみんなの心配のうちに、とうとう午後十時すぎごろになった。
「おお、伝馬船が」
 浜に立っていた漁夫の一人が、大声にさけんで、飛びあがった。
「おうい」
 島に居残った一同は、声をあわせてさけんだ。
 と、海から、
「おうい」
 と、かすかな返事が聞えてきた。つづいて、
「よんさ、ほうさ、ほらええ……」
 櫓拍子にあわせる掛声が、遠くから、だんだんはっきり聞えてくるではないか。
 船が帰ってきたというので、かがり火は、海岸にうつされた、そのかがり火の、あかるい光の中へ、伝馬船は、おみやげを山とつんで、ぶじに帰りついたのだ。
「お帰りなさい。どうでした」
「宝の島が見つかったよ」
「これこのとおり、かめが六つだ」
「流木が満船だ」
「こりゃ、たまげた」
 るす居した者たちは、かめや流木を、やんさ、やんさ、と浜へおろし、伝馬船を砂浜へ引きあげた。さっきまでの心配は、どこへやら、大喜び。それから、かがり火のそばで、円陣をつくって、宝島の話にむちゅうできき入った。
「や、もう夜中だ。ごくろうだった。みんなおやすみ」
 探検もぶじにすんだのだ。全員はそろって元気だ。私は、きらめく満天の星をあおいで、立ちあがった。

 探検の翌日、六月二十一日、朝食後、きのうの探検で発見した島に、「宝島」と名をつけることにきめ、今われわれの住んでいる島を、「本部島」とよぶことにきめた。
 それから、宝島から、たきぎとかめとを運ぶことについて、そうだんをした。
 伝馬船で、宝島と本部島の間を航海するには、天気をじゅうぶんに見きわめて、海のおだやかな時でなければできない。十月になると、海は荒くなって、交通はできない。それまでに、できるだけたくさんの流木《りゅうぼく》とかめとを、本部島に運んで、冬の支度をしなければならない。
 そこで、さしあたって、六人が伝馬船に乗って、宝島に渡ることにする。そして、流木とかめとをつんだ伝馬船は、三人で漕いで帰り、あとの三人は島へ残って、流木を集め、かめをとらえて牧場をつくって、つぎの船を待つ。つぎの船で、本部島から三人が出かけて行き、島の三人と交代して、宝島に残る。宝島には、いつでも三人ずつ残ることにする。
 本部島からは、飲料水を石油缶につめて送るが、宝島でも、天幕の屋根から雨水をあつめて、ためておくくふうをすること。宝島での食物は、魚をつってたべることにして、かめは、まんいち魚のとれない時の用意に、いつでも十頭ぐらいは、食用として残しておき、あとのかめは、本部島へ送ること。
 また、島をよくしらべて、なんでもめずらしいと思ったもの、発見したものは、どんな小さいことでも、かならず本部島へ報告すること。
 伝馬船は、朝早く、まだ暗いうちに出発して、日中の航海をして、夜の航海はしない。けっしてむりをしてはいけない。たとえ出発しても、天気がわるくなったら、すぐとちゅうからひき返して、気長に天気のよくなるのを待つようにすること。
 宝島で、いちばんだいじなことは、通る船の見はりである。宝島には、流木がたくさんあるから島に着いたらすぐに、高いやぐらをつくって、そこから、一人はきっと、四方の海を見はること。信号の「たき火」は、宝島にはたきぎがたくさんあるから、すぐできる。あとは、いつでも火種のとれる、万年灯《まんねんとう》をつくればいい。
 これらのことを、しっかりときめた。
 それから、いよいよ宝島へ行く、水夫長以下をきめた。飲料水を石油缶につめたり、天幕にする帆布、索《つな》、万年灯の油、つり道具、まんいちの用意として、かんづめ十個、マッチの小箱一個をかんづめの空缶に入れ、雨着の布でげんじゅうに包んだものなどをとりそろえて、あすでも天気がよければ、出発できるようにした。

   無人島教室

 きょうの作業は、きのう宝島から持ってきた、流木のなかの、船底板にはってある、銅板をはがす仕事であった。
 うすい銅板を、ていねいに釘《くぎ》をぬいてはぎとり、はがき二枚ぐらいの大きさの銅板を、六枚こしらえた。流木の中の、あつい板
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