藩兵達の大部隊が軍鼓を鳴らし、法螺《ほら》の音《ね》を空高く吹き鳴らし乍ら、二|旒《りゅう》の白旗を高々と押し立ててザクザクと長蛇のごとく勇ましげに進んでいった。
 それをお物見櫓《ものみやぐら》の上から見おろし乍ら、悦《よろこ》ばしげに君侯の呼ばわり励ます声が、冴えざえと青白く冴えまさっている月の光の中を流れて伝わった。
「行けい!」
「行けい!」
「丹羽長国の名を恥かしめるでないぞ!」
「行けい!」
「行けい!」
「二本松藩士の名を穢《けが》すでないぞ!」
「行けい!」
「行けい!」
 ききつつ二人が言った。
「御本懐そうよのう」
「御うれしげじゃのう」
 言い乍ら、ふいと門七が思い当ったとみえて、ぞっとなったように身ぶるいさせ乍ら言った。
「あれじゃ! 千之! 崇ったぞ! あの怪談話したゆえの崇りに相違ないぞ!」
「のう! ……」
 ガックリと首を垂れて、断末魔の迫って来た二人の目に、青白い月光の下を静かに流れ動いて行く二旒の白旗が大きな二本の歯のように映った……。



底本:「小笠原壱岐守」大衆文学館文庫、講談社
   1997(平成9)年2月20日第1刷発行
底本の親本:「佐々木味津三全集10」平凡社
   1934(昭和9)年発行
初出:「中央公論 二月号」
   1931(昭和6)年発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野晋
校正:noriko saito
2004年11月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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