山県有朋の靴
佐々木味津三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)平七《へいしち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)狂介|権助《ごんすけ》
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一
「平七《へいしち》。――これよ、平七平七」
「…………」
「耳が遠いな。平七はどこじゃ。平《へい》はおらんか!」
「へえへえ。平はこっちにおりますんで、只今、お靴《くつ》を磨《みが》いておりますんで」
「庭へ廻れ」
「へえへえ。近ごろまた東京に、めっきり美人がふえましたそうで、弱ったことになりましたな」
「またそういうことを言う。貴様、少うし腰も低くなって、気位《きぐらい》もだんだんと折れて来たと思ったらじきに今のような荊《とげ》を出すな。いくら荊を出したとて、もう貴様等ごとき痩《や》せ旗本の天下は廻って来んぞ」
「左様でございましょうか……」
「左様でございましょうかとは何じゃ。そういう言い方をするから、貴様、いつも叱《しか》られてばかりいるのじゃ。おまえ、郵便報知《ゆうびんほうち》というを知っておろうな」
「新聞社でございますか」
「そうじゃ。あいつ、近ごろまた怪《け
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